クラウンシエンタほか新車・価格にも影響!? 最新決算から読み取るトヨタ戦略

■コストインフレと値上げの「1兆円ギャップ」 日本とアジアに軸足を置くトヨタの動き方

 明暗を分ける要素が、国別の販売台数構成にあると筆者は分析しています。

 北米の比率が高いほど価格転嫁しやすく、日本や東南アジアの構成比が高いほど価格転嫁に苦戦する構造が読み取れます。

 実勢価格は市場が決めるメカニズムで、メーカーの意向だけでは動かせないものです。

 米国では、GMやフォードといったプライスリーダー(製品価格の決定に大きく影響を与える業界リーダー)がどんどん値上げをしており、高い賃金上昇力を有する消費者の購買力も現時点では充分担保されています。

 一方、日本とアジアではトヨタがプライスリーダーです。トヨタは地域の購買力や賃金上昇率を鑑みて、「日常の足で使うような軽自動車やコンパクトカーで価格を上昇させるのは厳しい」とコメントし、値上げに慎重なスタンスを改めて示しました。

 すなわち、トヨタが業界内で最も大幅な減益予想を掲げている理由はコストインフレ(1兆4500億円)と価格改定=値上げ(+4550億円)の1兆円のギャップにあるのです。

■慌てず、ゆっくりと挽回

 会社計画に盛り込まれた販売1台当たりのコストインフレにも大きな差異があります。

 トヨタが16万円、ホンダ、日産、スバルは10万円強とかなりの幅があります。

 トヨタは円安インフレに苦しむ国内サプライヤーを系列に多く抱え込んでおり、体力回復を考慮して、サプライヤーからの値上げ転嫁要請を飲み込んだ計画となっているようです。

 目の前の収益に固執するのではなく、一旦、トヨタが約1兆円のコストギャップを受け止めます。サプライヤーの体質改善を優先し、慌てずゆっくりと挽回していけばよいという、トヨタらしい考え方と言えるでしょう。

 もっとも、現在の為替水準が続くなら1兆円近くの為替メリットがこのギャップを飲み込む可能性もあります。

 自動車産業は大変革の最中にあり、ロシア危機で一段と混迷が深まり、正解が見えない戦いが始まったばかり。今から皆が疲弊し、困窮することは本末転倒でしょう。

●中西孝樹(なかにしたかき):オレゴン大学卒。1994年より自動車産業調査に従事し、国内外多数の経済誌で人気アナリスト1位を獲得。著書多数

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