ナカニシ自動車産業リサーチ・中西孝樹氏による本誌『ベストカー』の月イチ連載「自動車業界一流分析」。クルマにまつわる経済事象をわかりやすく解説すると好評だ。
第七回目となる今回は、過去最高益を記録した2022年3月期、一転して大幅な減収が見込まれる2023年3月期のトヨタ決算・その見通しを元に、トヨタの現状とこれからを読み解く。
※本稿は2022年5月のものです
文/中西孝樹(ナカニシ自動車産業リサーチ)、写真・画像/TOYOTA ほか
初出:『ベストカー』2022年6月26日号
■2022年3月期決算は過去最高益更新のトヨタ しかし来期は20%減の見通しも
2022年3月期の自動車メーカー各社の決算発表が出揃いました。
乗用車7社の営業利益合計は前年比51%増となる4兆6827億円に達し、トヨタは過去最高益を更新しました。
一方、2023年3月期は4兆16501億円へ11%減少する見通しとなっており、業績悪化の懸念が台頭していることも事実です。
今後一段と円安メリットが収益を改善させる公算はあります。しかし、我々が最も注目しているのは、コストインフレーションと販売価格改定(=値上げ)のバランスです。
実際、業界トップのトヨタはそのギャップが最も大きく、2023年3月期の連結営業利益は前期より20%減少した2兆4000億円になる見通しを発表し、市場を驚かせました。
減益に転じる背景には2022年3月期より1兆4500億円も膨らむ素材高を背景とした原材料高騰です。
各社の来期見通しから集計したコストインフレ(原材料費、輸送費、半導体価格、サプライヤーからの値上げ転嫁の合計)の影響額は実に2兆7427億円と、過去に例がないレベルに達しています。
このコスト上昇をいかに最終製品の価格へ転嫁できるかで、メーカー業績は明暗を分ける形となるのです。
価格改定の計画がどうなっているかを見れば、希望小売価格の値上げから、7社合計で1兆1376億円の増益効果を見込んでいることがわかります。約40%を値上げで打ち返す格好となっているわけです。
会社によってこの比率のばらつきは大きく、80%を打ち返すスバルに対し、ホンダや日産は約50%、そしてトヨタとスズキは30%程度に留まると見込まれています。
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