FCVの普及への壁は高い!! 水素の調達にどう動くべきなのか?

FCVの普及への壁は高い!! 水素の調達にどう動くべきなのか?

 カーボンニュートラル社会へといわれているなか、EV(電気自動車)とともに期待されるFCV(燃料電池車)では、どのような壁が存在するのか、解説していく。FCVの燃料である水素調達に希望あり?

文/高根英幸
写真/高根英幸(燃料電池バスSORA)、TOYOTA、Adobestock

■どうなる? FCV国内販売台数は、目標の普及台数の1割程度!?

世界初のFCVとして2014年に登場した初代MIRAI。カーボンニュートラルの実現に向けて動き出すなか、FCVの普及はなかなか進まない
世界初のFCVとして2014年に登場した初代MIRAI。カーボンニュートラルの実現に向けて動き出すなか、FCVの普及はなかなか進まない

 FCV(燃料電池車)に続いて水素エンジン車も再登場し、水素社会がいよいよ身近なものとなりそうなムードが静かに湧き起こりつつある。しかし、完全な普及にはまだまだ程遠い。充分な補助金を手当してもFCVの国内販売台数は、国の目標であった普及台数の1割程度に留まっているのが現状だ。

 しかし電気はそのまま溜めておくことは出来ず、蓄電池を大量に使ったとしてもそれらが劣化すれば、またエネルギーを消費してリサイクルしなければならない。だから電気を溜めておくために水素を利用することも必要な方法であり、水素のまま充填して走りながら電気を作るFCVも合理的な選択なのだ。

 ただし水素社会を推進する企業や団体がPRする「水素は地球上に無尽蔵にあるクリーンエネルギー」というのはいささか誇大広告ではないだろうか。これは水素に無知な消費者に良いイメージを植え付けるための印象操作と取られてもしかたない。

 水素は電気と同じく、そのまま利用できる形で自然界に存在することはほとんどないため、取り出すためにエネルギーが必要になる。これは石油などの化石燃料とは異なるもので、単に分離精製すればいい、というものではないのだ。

 つまり水素を作り出すには、水素以上のエネルギーが必要、もしくは化石燃料由来ということになる。

■水素ステーションは増えているが設置の増加率は低い理由とは

水素ステーションには、街中のガソリンスタンドと同様の定置式とトレーラーで移動できる移動式の2タイプがある(elmar gubisch – stock.adobe.com)
水素ステーションには、街中のガソリンスタンドと同様の定置式とトレーラーで移動できる移動式の2タイプがある(elmar gubisch – stock.adobe.com)

 それでも水素ステーションは、首都圏を中心に増やされつつある。交通量の多い国道などを走っていると、水素ステーションを見かける頻度が高くなった。

 ちなみに2022年12月現在で全国の水素ステーションの数は164箇所であり、約1年半の間に20箇所ほど増えている。といっても常設ではなくトラックに積まれた移動式の充填設備を曜日によって場所を変えて利用しているものも多く、週に1度しか利用できないようなものも1軒と数えているので、実際はかなり利便性は低いところもあるようだ。

 水素ステーションがなかなか増えないのは、安全対策などの規制が厳しく設備面でもガソリンスタンドの倍以上の費用が掛かることと、現実には利用者が少なく採算性が低いことなどが理由だ。

 建設や運営にはかなりの補助金が受けられるが、運営は赤字が必至。来たる水素社会のための先行投資としてしか民間企業にはメリットがないのだから、増やそうと思ってもなかなか難しい。

 水素を精製する企業にとっても、同じような状況だ。ちなみに水素でも、作り出す内容によって環境負荷が異なることから、区別されて呼ばれている。天然ガスなど化石燃料由来や製鉄所などで石炭を使用した熱によってできる副生水素は、CO2の発生が伴っていることからグレー水素と呼ばれている。

 それでもCO2回収技術などを使い、大気への放出を抑えたものはブルー水素と呼ばれている。最も環境負荷の低い水素はグリーン水素と呼ばれるもので、再生可能エネルギーによる電力で水を電気分解して生成した水素を指す。

 現時点で提供されている水素は天然ガスから分離されている時点で大量のCO2を発生させているグレー水素だ。生産時にCO2を回収できればブルー水素となり、植物工場やドライアイス製造などで利用することはできる。

 産油国であればCO2を油田に注入して石油や天然ガスを採掘しやすくすると共にCO2を貯蔵することも行われている。したがってCO2の発生時点でNGということはないが、化石燃料を使用している時点で持続可能なエネルギーではないから近い将来、別の手段が必要だ。

街中で目にする機会が増えてきたトヨタの燃料電池バス「SORA」
街中で目にする機会が増えてきたトヨタの燃料電池バス「SORA」

 そのうえで、なぜ水素社会が求められているかについても言及しておきたい。それはEVの世界もまた問題が山積みだからだ。全国に急速充電器の設置数が少なく、それは普及障害の一因と見られているが、そんなものはホンの一つの要素に過ぎない。

 なぜなら現時点ではEVの電費は車載のバッテリーの蓄電量でどれだけの距離が走れるか、という効率を示しているが、急速充電では充電器の送電ロス、バッテリーの内部抵抗によるロス、温度上昇を抑える冷却の消費電力は計算に含まれていない。

 今以上の高出力な急速充電器が普及するようになるということは、充電ケーブルの熱損失やバッテリーの冷却による損失なども膨大なものとなり、EVが消費する電力全体が大幅に増えることを意味する。

 基本的にEVは普通充電で使用し、遠距離を走る際に経路充電(途中経路で充電して走行を続けるもの)の時に急速充電を利用する乗り物だ。日本のように集合住宅の比率が高い環境では、一家に1台の普通充電器を備え付けることは難しい。

 機械式駐車場で、EVを載せたパレットを入れ替えることで充電の予約をこなすシステムも考案されているが、それだけでは不十分だし、こうしたシステム自体の普及もかなり時間がかかりそうだ。

 その点、水素であれば液体燃料と同じように充填できるので、FCVは駐車場の状態を問わず利用できる。これは水素エンジンやバイオ燃料、合成燃料のクルマと同じで、FCVは水素利用の効率的なモビリティだ。

次ページは : ■FCVの問題点と水素ステーションの問題点

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