2020年7月の1週目、スズキは欧州で、トヨタのミドルSUV「RAV4 PHV(プラグインハイブリッド)」のスズキ向けOEM車「アクロス」を発表した。
アクロスに関して日本ではトヨタ、スズキともに発表をしていないため驚いた方も多いかもしれない。
しかし、実は「欧州でのトヨタからスズキへの電動車のOEM供給」は、2016年10月に検討が開始され、2019年3月にそれがRAV4となることも含めて発表済みである。
新型アクロスとはどんなクルマなのか? すでに発表されている両社の具体的な協業の内容と合わせて紹介し、両社の協業の将来も考察してみたい。
文:永田恵一
写真:SUZUKI、TOYOTA
【画像ギャラリー】本文未掲載のスズキ 新型アクロス全写真&トヨタ RAV4と徹底比較!!
単なるバッジ違いじゃない! 新型アクロスの特長&由来とは?

今秋以降に欧州で発売される新型アクロスは、分家としてOEM供給されるモデルとしては手の込んだモデルである。
その理由はRAV4 PHVとのフロントマスクの違いだ。
アクロスのフロントマスクは、単なるRAV4 PHVのエンブレム違いではなく、いかにもSUVらしいワイルドさがあるRAV4 PHVに対し、いい意味でライト、シャープなものとなっている。
これはこれでRAV4の何らかのバリエーションとして「トヨタでも設定してもいいのでは」と感じるくらいだ。

さて、このアクロス、日本導入はあるのだろうか? スズキ広報部に問い合わせると「欧州のみの販売を予定しております」とのことで、日本導入はないもよう。
アクロスを欧州で発売する経緯については、
「トヨタ様とは商品・技術面での協業プロジェクトを進めており、アクロスは電動SUV商品を供給して頂くプロジェクトとなります」
「これまでのラインナップより大きなモデルを導入することで、お客様の幅も広がり、スズキモデルラインナップの認知を広げられることも期待しています。また、欧州でのCO2規制への対応という面もあります」
と、ラインナップの拡充や欧州でいっそう厳しくなる環境規制対策という側面もあるようだ。

ちなみに“アクロス”という車名は、1990年代にスズキにあった250ccの4気筒エンジンを搭載するツアラー(クルマでいえばGTカー)のバイクで使われたもので、バイク好きなら懐かしさを感じるファンもいるかもしれない。
バイクのアクロスは、通常のバイクでは燃料タンクとなるスペースを現行のホンダNCシリーズのようにヘルメットなどを収納できるスペースとするという特徴があったが、成功作とはいえず、絶版となった。
さて、話題を四輪のアクロスに戻すと、こちらはOEMだけにフロントマスクと各部のエンブレム以外、リアはモーター駆動の4WDとなる点、18.1kWhのバッテリーを搭載し、EV走行距離は欧州モードで75kmとなる点など、欧州仕様のRAV4 PHVに準じている。

なお日本で発売されたばかりのRAV4 PHVは、前述した点に加え、システム出力は306馬力とパワフル。ガソリンが入っている限り1500W分の給電が永久に可能、その割に価格は469万円からという商品力の非常に高いクルマだ。
RAV4 PHVはそんな「売れるに決まっているクルマ」なのに、日本向けの供給は月300台と少ないため、殺到した注文に対しバッテリーの生産がまったく追いつかないこともあり、現在一時受注を停止している。
実は多岐に渡るトヨタ&スズキ協業の「中身」

アクロス以外にすでに始まっているトヨタとスズキの協業としては、インドでのスズキの大きめのコンパクトカーとなる「バレーノ」を、トヨタへ「グランツァ」の車名(これも最後のスターレットのスポーツモデルのグレード名で使われた懐かしい名前だ)でOEM供給していることがあげられる。
これ以外に発表されているトヨタとスズキの協業を紹介すると、
●2017年11月17日発表/インド向けEVの投入
2020年頃にスズキがインド向けに生産するEVにおけるトヨタの技術的支援、トヨタへの供給、充電施設や使用済バッテリーの適切な処理体制といった周辺環境の整備。
●2019年3月20日発表/トヨタの強みである電動化技術、電動車の供給
【1】グローバルでのスズキへのトヨタの2モーターハイブリッドの供給
これはマツダのアクセラハイブリッドや米国仕様のスバル クロストレック(日本名:XV)PHEVと同様だろう。その際には燃費向上のためハイブリッド用の熱効率の高いエンジンも欲しいところだ。
【2】インドでのハイブリッドシステム、エンジンおよびバッテリーの現地調達化によるハイブリッド技術の普及
【3】欧州でのスズキへの電動車のOEM供給
具体的なモデルとしては前述のアクロスに加え、カローラワゴンが発表されている。