【かつての「主役」】 駆け寄って抱きしめたい愛すべき地味セダン列伝

 発表されたばかりの新型アコードを見て、こうつぶやいてしまいました。

「地味だ……」

 いや、新型アコードのスタイリングは、決して地味じゃないです。とってもスタイリッシュです。でも地味に感じてしまうのはなぜでしょう?

 それは、愛の予感がしないから……。

 セダン受難の時代。積極的にセダンを選ぶのは保守的な中高年ばかりになり、世の中のセダンに対する愛は冷めるいっぽうです。セダンというだけで、愛してもらえない可能性が高いのです。なんてかわいそうなセダンたち。

 思えば、世の中には記憶から消え去った地味なセダンがたくさんありました。それら忘れ去られた地味なセダンに再び光を当て、その地味ぶりを愛でようじゃないですか! ほら、地味ってステキでしょ。地味ってスバラシイ!

 これは、地味なセダンたちを供養する、愛の特集です。

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※本稿は2020年2月のものです
構成・文:清水草一/写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2020年3月26日号


■プラッツ ラティオ…小さいなりしてオッサンくさい【若年寄型】

 地味セダン中の地味セダン、地味セダンの帝王と呼ぶべきは、この若年寄型であろう。

 もともとハッチバックが主流のコンパクトクラスで、営業車需要や、セダンにこだわる高齢者、あるいは途上国向けに設定された小型セダンたちの姿は、野に咲く一輪の花のように可憐。可憐すぎて涙が出る。

 もともとがハッチバックゆえ、トランク部を無理に追加したことで、プロポーションが狂ってくるのがこのクラスの特徴で、それがまた哀愁を掻き立てる~!

 なかでも心に残るのは、初代ヴィッツのセダン版、プラッツか。その前身に当たるターセル/コルサセダンも地味だったが、トランク部の取って付けた感ではプラッツの敵ではない。まさにツチノコ! ゾクゾクするなぁ。

●トヨタ プラッツ(1999~2005年)

大傑作モデル、初代ヴィッツをベースに、トランク部を取って付けた4ドアセダン。見る角度によって、異常な出っ尻に見えるところがイイ

 その後継のベルタ(2代目ヴィッツのセダン版)もいい味だったが、専用設計のロングホイールベースを得たことでプロポーションがマトモになり、哀愁は減少した。

 近年、セダン需要の減退とともに、若年寄型セダンの日本市場投入は激減したが、そのラスト? を華々しく飾ったのが、日産ラティオである。

 アジア向けに開発されたその姿は、どうにも安っぽいパネル面と、どうにも狂って見えるプロポーションで、若年寄型セダン最後の大輪の花となった。なぜ日本に導入したんでしょう? 主に営業車需要とのことでしたが、トホホな風情が心に沁みました。

●日産 ラティオ(2012年-2016年 *日本仕様)

2012年に発売されたタイ製小型セダン。見ただけで涙

■センティア レパード レジェンド シーマ…どこから見ても引退間際【窓際オヤジ型】

 若年寄型と並んで、地味セダンのもうひとつの本流とも言うべきは、この窓際オヤジ型でありましょう。

 セダンといえば本来威厳ある存在。それゆえ、窓際に追いやられると急速にしぼみ、地味でサエないただのオッサンとなる。そこに限りない哀愁が発生する。権威的であるがゆえに、逆に地味度が増すのである。

 その最たるものが、1995年に発売された、マツダの2代目センティアではないでしょうか。ひゅるるる~。

●マツダ 2代目センティア(1995~2000年)

1995年に登場。経営危機のためエレガントだった初代から一転、トヨタ製高級車のような押出し感を強調したスタイルに方向転換。窓際感のカタマリとなりました!

 初代センティアは1991年、バブルの波に乗り、ルーチェの後継モデルとして登場。当然、マツダの最高級セダンでありました。

 当時イケイケだったマツダは、これをジャガーのようなエレガントでスポーティなセダンに仕立てた。その意気やよし! が、結果は大失敗。後席やトランクが狭いだの言われ、センティアはまるで売れなかった。

 つまり、初代センティアも地味セダンなのですが、見た目はエレガントだったし、なによりも後を継いだ2代目センティアの破壊力が超弩級で、初代の地味ぶりはかき消されてしまった。

 2代目センティア。それは悪夢でした。初代センティアが抱いた高い理想をすべて捨て、保守に回帰した結果、広島のハゲオヤジが後席でふんぞり返るためだけに作られたような、ひたすらダサくてどこにも取り柄のない大型セダンになったのです。

 もちろん販売はさらに低迷し、2000年、ひっそりと消滅しました。今、もし街で2代目センティアを見かけたら、駆け寄って抱きしめようと思います。

 これに近いのが、1996年に登場した4代目レパードでしょう。

●日産 4代目レパード(1996年-2000年)

1996年登場。波乱万丈の経緯をたどったレパードは、日産の経営危機で土俵際へ。セド/グロの兄弟車としてひっそり車生を終えたのでした

 レパードはもともとパワーエリートなスペシャルティカーとして生まれたのに、その後ソアラもどき、尻下がりのJフェリーと変遷し、最後にたどり着いたのがセド/グロの兄弟車という形。

 ソアラにコテンパンにされ、尻下がりでコテンパンに言われた不遇の車名は、セド/グロのパラサイトに着地し、そこでもいっさい存在感を発揮できず、というより「まだ生きてたの?」という状態で消滅を迎えたのです。デザインも「え、なにコレ?」としか言いようがない地味な最期でした。

 キザシは、スズキが初めて作った大型(Dセグメント)セダン。そのフォルムは凝縮感が高くスポーティで、単体では決して地味ではありませんが、さすがにスズキの大型セダンを欲しがる人は少なく、ほとんど売れなかった。

●スズキ キザシ(2009年-2015年)

2009年、突如彗星の如く現われたスズキ初の大型セダン。なぜスズキがこういうクルマを作ろうとしたのか、理由はいまだよくわかってない

 最後に在庫大処分で警察車両に激安入札され、「キザシを見たら覆面パトと思え」と言われるようになった歴史があまりにも泣かせる! 人生(車生)がウルトラ地味なので、窓際オヤジ型の一員に加えさせていただきました。

 現行モデルでは、レジェンドとシーマの窓際度が突出している。レジェンドは超先進メカを持つが、デザインがカラス天狗でメッタメタ。

 全世界でまったく売れてない。シーマはフーガのストレッチ版として地味に生きながらえておる状態。どちらもいつ消滅してもおかしくない。もうココロの準備もできていることでしょう。

■フローリアン デボネア…化石になっても生きていた【シーラカンス型】

 シーラカンスとは、3億年前の形態のまま現在も生きながらえている古代魚。20世紀になってから生存が確認され、世界に衝撃を与えました

 シーラカンス型は、国産車ではこの2台のみ。ともにあまりにも人生(車生)が長すぎたことで、最後は生きる化石となりました。

 フローリアンが生まれたのは1967年。デザインはイタリアのカロッツエリア・ギアで、生まれた時はオシャレだったんだけど、1983年まで17年間も生産され、最後のマイチェンでアメ車みたいなフロントマスクにされたことで、末期は絶句するような化石デザインに。メカも化石でしたが。誰が買ってたんだろ……。

●いすゞ フローリアン(1967年-1983年)

登場当初はこんないかつい顔じゃなく、初代ジェミニみたいなヨーロピアンな雰囲気だった。つまりフローリアンは、最後(1977年以降)にシーラカンスとして完成したのですネ!

 初代デボネアの誕生はさらに古くて1964年。アメ車の影響を強く受けたデザインが、そのまま22年間も存続したんだから、そりゃ生きる化石にもなるわな。でも最後まで三菱系列の社用車&ハイヤーとして活躍してたヨ!

●三菱 初代デボネア(1964年-1986年)

外国といえばアメリカ、ガイシャと言えばアメ車だった時代に誕生し、そのまま22歳まで生きました

 どっちも化石すぎて、逆に非常に目立ったので、地味どころかハデだったとも言えます。ここまで来れば「きんさんぎんさん」ですね。地味扱いしてスイマセン。

■ユーノス500 ほか…バブル期に大量発生【マツダバブル型】

 バブル景気に乗り、1989年に始まったマツダの5チャンネル体制。それに伴って大量の新型車が生まれ、その多くが4ドアセダン&ハードトップだった。

●ユーノス500(1992年-1996年)

マツダバブルセダンを代表する一台。デザインが超スタイリッシュだった

 この時期のマツダのセダンたちは、その多くが非常にスタイリッシュで、見た目は地味じゃないんだけど、どれもこれもまったく売れず、種類も多すぎたことで覚えられず、結果的に地味な存在に。

 大量発生ゆえの地味は、国産車史上これだけだネ!

■マキシマ セプター アバロン…派手なはずなのに影が薄い【地味アメリカン型】

 若年寄型と窓際オヤジ型は、ともに急速に姿を消しつつあるが、それに代わって地味セダンの主役となったのが、地味アメリカン型である。

 1980年代以降、日本車メーカーにとって北米は金城湯池となり、国産セダンは北米市場に合わせて徐々に巨大化していった。

 そのデカいセダンを日本市場にも投入するものの、デカいだけであまりゴージャスでもなく速くもなく、つまり日本の需要にマッチせず、結果的にあまり売れずに地味な存在としてかすかに記憶に残る……というサイクルが繰り返されているのでございます。

 地味アメリカン型のパイオニアは、1988年の日産マキシマだろうか。大らかな3ナンバーボディ&V6は専門家ウケしたが、売れなかった。

●日産 3代目マキシマ(1988年-1994年)

日産が「4ドアスポーツカー」と称した3代目マキシマ。米「カー・アンド・ドライバー」誌の「10ベストカー」にも選出。

 対するトヨタは1992年から、北米カムリを「セプター」として逆輸入。セプターワゴンはそこそこ売れたが、セダンはやっぱり「ただデカいだけ」で売れなかった。

●トヨタ セプター(1992年-1996年)

北米カムリを日本に持ってくると、ただうすらデカいだけのセダンになりました

 トヨタは懲りずに1995年から北米トヨタの最上級セダンだったアバロンを日本に投入! 国内最大級の居住性を誇ったが、同じく売れず。2代目アバロンも「プロナード」の名前で売ったものの、これも広い以外にウリがなく、販売は低迷したのでした。

 現行モデルでは、ホンダ・インサイトやスバル・レガシィB4がその典型。見た目はグローバルモデルらしくスタイリッシュだし、北米ではそこそこ売れてるけど、日本に持ってくるとどうしても「ただ広いだけ」って感じでココロに刺さる部分がなく、地味になるのですね……。

●トヨタ アバロン(1995年-1999年)

大味な雰囲気がものめずらしかったけれど、日本ではまったく売れなかった

■サンタナ …クロウト好みでどこか暗い 地味ヨーロピアン型

 日本人にとってヨーロッパは、最終的な憧れの地! 欧州の香りのするクルマは絶対ステキだし絶対売れそう! な気がするけど、実際売ってみるとなぜか地味! そりゃまぁホンモノの欧州車じゃないからしょうがないけど。

 地味ヨーロピアン型セダンの帝王は、VWサンタナを日産がノックダウン生産した「日産サンタナ」と言って差し支えあるまい! エンジンは完成品をドイツから輸入してたし!

●日産 サンタナ(1984~1990年)

2代目パサートのセダン版。中国や南米、そして日本などで販売され、なかでも中国では20世紀中は最量販車! 日本では地味な存在で終わりましたが、私の心には深く刻まれました

 実際乗ると直進安定性が素晴らしく、「さすがドイツ車!」だったんだけど、スペックはショボいし見た目も地味。トラブルも多くてさんざんな結果となりました。

 三菱カリスマとトヨタアベンシス(セダンは2代目のみ)は、ヨーロッパからの逆輸入車。つまり正真正銘の欧州車! だったんだけど、ヨーロッパでの日本車って、やっぱ地味な存在でしょ?

●三菱 カリスマ(1996年-2001年)

オランダ・ネッドカーで生産された中型セダン。いかにも欧州車的なしっかりした乗り味だったけど、日本では理解されず

●トヨタ 2代目アベンシス(2003年-2009年)

トヨタのイギリス工場から逆輸入。走りはまさに欧州車。ワゴンは多少売れたが、セダンはウルトラ希少&超地味。続く3代目はワゴンのみが日本でも発売された

 それをそのまんま日本に持ってくるとフツーの国産車より地味で、しかも値段が高くなってしまいました! これじゃ買う人少ないよね……。

 実際乗ると走りは明らかにヨーロッパ車だったんだけど、ならホンモノの欧州車買うわ、ってことで。言われてみれば確かに。欧州は遠きにありて思ふもの。

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