スバルは2020年5~8月にかけてラインナップを一新するために、既存のラインナップ中の9車種をオーダーストップとし、9車種中の2車種、レガシィB4とBRZは販売終了となった。
元々少数精鋭のラインナップのスバルにとって、一見異常とも思える戦略に映ってしまう。しかも、レヴォーグ、インプレッサについては、発表と発売の時期が大きくずれているため、販社はどのように対応しているのかも気になる。
スバルの販売戦略の是非について、渡辺陽一郎氏が考察する。
文/渡辺陽一郎、写真:SUBARU、MAZDA
【画像ギャラリー】クルマ好きやマニアを惹きつける少数精鋭で独自路線を貫くスバルのカーラインナップ
扱い車種が少ないのに改良時期が重なった
スバルのクルマ造りは、トヨタや日産とは手法が違う。エンジン、プラットフォーム、車種の数などを抑える代わりに、技術指向の強い個性的な商品開発をしている。そのためにユーザーにはクルマ好きが多い。
ただし最近は、以前から少なかった取り扱い車種がさらに減ってきた。販売店は販売終了したBRZについて次のようにコメントしている。
「BRZはすでに販売を終えました。次期型の開発を進めていますが、今は購入できません。次期型は2021年1月に開催される東京オートサロンで披露され、その後に発売する見通しですが、確定的ではありません」。
また日本のスバル人気を長きにわたりさせてきたレガシィシリーズについても言及。
「レガシィは、セダンのB4が販売を終えました。アウトバックは、北米で新型がすでに登場していますが、日本では従来型を売っています。日本仕様の新型レガシィアウトバックが登場するのは、2021年9月以降の見通しです。エンジンは環境性能の優れた新型レヴォーグと同じ1.8Lターボに変わる可能性もあります」。
レガシィB4は2020年6月、BRZは同年7月に新規の受注を終了した。その後、前述の通りB4は廃止され、BRZは2021年にフルモデルチェンジするから今は買えない。
レヴォーグも5月に従来型の受注を終えた。新型は8月20日に先行予約を開始して、正式な発表は10月15日だ。納車を伴う発売は11月26日だから、実質的に半年間はレヴォーグを販売しない状態が続く。
このほかWRX・STIは2019年末に生産を終えて、残されたWRX・S4も、7月にはグレードをSTIスポーツアイサイトのみに整理している。
スバルの上半期の販売台数は激減
このようにスバル車は、最近になって、一斉に切り替わりの時期を迎えて受注を終えた。販売する商品が減って困らないのか、この点も販売店に尋ねた。
BRZやレヴォーグはフルモデルチェンジに伴って販売を中断している状態であることを前提に、他の車種についても言及。
「インプレッサは10月にマイナーチェンジを受けましたが、この影響で7月には受注を中断しました。その後は在庫車を売ってきました。またその前の9月には、XVも改良されています。直近ではフォレスターもマイナーチェンジを控えており、いずれの車種も販売の中断によって売れ行きを下げました。それをこれから挽回するわけです」。
スバルの販売台数を振り返ると、コロナ禍の影響が収まってきた2020年7月以降も、大幅なマイナスが続いている。7月は国内市場全体では前年同月に比べて14%の減少だったが、スバルは27%減った。
同様に8月の国内市場は16%の減少だが、スバルは36%のマイナスだ。9月は国内市場が14%、スバルは45%減った。
2020年度上半期(2020年4~9月)をトータルで見ると、国内市場全体では前年同期に比べて23%の減少だが、スバルは42%減っている。
スバルは効率のいい商売をしている
ここまで販売台数が下がっても販売会社が維持される背景には、スバルの店舗数が少ないことも影響しているだろう。全国に展開されるスバルの店舗数は約460箇所だ。
トヨタ4系列を合計すると約4600箇所だから、スバルは10%の規模に収まる。ホンダは約2170箇所、日産は約2080箇所だ。
そこで2020年度上半期における1店舗当たりの販売台数を割り出すと、スバルは88台(1カ月平均なら15台)、トヨタは141台(同24台)、ホンダは130台(同22台)、日産は98台(16台)になる。
スバルの1店舗当たりの台数は少ないが、販売台数が昨年に比べて42%も減った割には、トヨタ、ホンダ、日産と比較してあまり変わらない。
さらにスバル車は、価格が全般的に高い。OEM軽自動車も国内で売られるスバル車の20~25%を占めるが、75%以上は小型/普通車だ。
そしてスバル車の中では価格の安いインプレッサも、売れ筋価格帯は220万~260万円になる。その次に売れるフォレスターは、300万円前後が中心だ。
いっぽう、ホンダでは軽自動車の比率が50%以上に達する。最多販売車種のN-BOXは、軽自動車では高価な部類に属するが、カスタムでも売れ筋グレードは170万~180万円だ。インプレッサに比べれば安く、N-WGNは中心価格帯が150万円前後まで下がる。
日産も軽自動車の比率が45%前後で、残りはノートとセレナだ。セレナは高価格だが、ノートはハイブリッドのe-POWERが中心ながら、価格はインプレッサと大差ない。
トヨタは高価格車のアルファードやハリアーも好調だが、コンパクトなヤリスやライズの販売台数も多い。
このように見てくると、スバルは通常では効率のいい商売をしている。スバルの商品企画担当者は「スバルの1店舗当たりの車両販売に基づく売り上げは、日本車ディーラーではレクサスに次いで高いです」という。
だからこそフルモデルチェンジや改良に基づく販売中断が集中して、対前年比が大きく下がっても、痛手は少ないのだろう。
スバルの販売方法ではユーザーを長期間待たせてしまう
しかしユーザーを長期間にわたって待たせるのは別の問題だ。
レヴォーグは前述のとおり、2020年5月に従来型の受注を終えて、8月20日に先行予約を開始した。納車の開始は11月26日以降だから、先行予約で注文したユーザーは、3カ月は待たされてしまう。
しかも販売店によると、「試乗車の配車は、発売日の11月下旬以降でしょう」というから、8月20日の先行予約開始から11月下旬までの約3カ月は、実車を見られない状態で商談している。
新型レヴォーグのセールスポイントは、「飛躍的に高められた走りの質感」だ。試乗できず、セールスポイントを実感できない状態で商談したり契約するのは、矛盾が伴ってスバルらしい売り方ではない。
ちなみにマツダも以前は、発売の約3カ月前に、実車のない状態で予約受注を開始していた。しかしMX-30は、予約受注の開始が2020年9月下旬で、10月8日には発売している。
予約受注の前倒しをやめた理由をマツダの商品企画担当者に尋ねると、「お客様と販売店のためにならないと判断してスケジュールを改めました」と返答した。スバルも試乗した上で、納得して商談できるようにすべきだ。
旧型を売り続けることの矛盾と弊害
レガシィも問題を抱える。北米では2019年7月に新型の生産を開始しながら、日本では今でも旧型を売っていることだ。新型レガシィはフルモデルチェンジだから、衝撃吸収力まで含めて、安全性が大幅に向上する。
販売店のコメントどおり、次期レガシィアウトバックの国内発売が2021年9月以降であれば、日本では約2年間も、北米に比べて安全性の劣った旧型を売り続けることになってしまう。
ホンダではアコードが、2017年7月に北米で新型を発表しながら、日本におけるフルモデルチェンジは2020年2月だった。2年半にわたり、日本では旧型を売っていた。
レガシィがほぼ5年周期でフルモデルチェンジすることを考えると、世界同時発売は無理としても、発売の時間差を1年以内に抑えたい。
日本のメーカーが日本国内の発売を海外に比べて2年間も遅らせると、さすがに言い訳が通用しなくなる。
今のクルマは、フルモデルチェンジの度に安全性を急速に向上させている。設計の古いクルマを売り続けることは、安全重視の商品開発にも逆行する。
もっと日本のユーザーを大切に考えて商品を開発すれば、売れ行きも自然に伸びる。