2020年も新型車が華々しく登場する一方で、静かに廃止されたクルマもあった。
最近は国内需要が伸び悩むのに、SUVは流行のカテゴリーとあって新規投入車種が多い。その結果、廃止される車種も増加傾向にある。
なかでも今年は、各メーカー伝統あるセダンモデルの廃止が目立った。生産終了した3台の大物セダンを筆頭に、2020年に生産終了したモデルを振り返っていきたい。
文/渡辺陽一郎、写真/スバル、ホンダ、日産、スズキ、トヨタ
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スバル レガシィB4
廃止された車種を見るとセダンが目立ち、レガシィB4も含まれる。初代モデルは1989年にレガシィセダンとして設定され、上質な内外装と優れた走行性能で人気を高めた。
1998年登場の3代目で、セダンはB4という名称を採用している。1990年代に入ると、税制の不利が解消されてセダンは次々と3ナンバー車になったが、レガシィB4はツーリングワゴンと併せて5ナンバーサイズを守った。日本の交通環境に合わせた冷静な商品開発は、クルマ好きの間で共感を呼んだ。
しかし、2009年登場の5代目では、全幅が1780mm、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)も2750mmに拡大されてスポーティ感覚は薄れた。
2014年の6代目(日本仕様の最終型)では、全幅が1800mmを超えるなど、さらに大型化。この世代からツーリングワゴンはレヴォーグに置き換えられ、レガシィは北米向けのB4とアウトバックになった。
つまりB4が廃止された理由は2つある。まずはセダン市場の需要が全般的に落ちたことだ。他メーカーのセダンも減っている。
2つ目は5代目でボディが大幅に拡大され、機敏な運転感覚が薄れたこと。5/6代目ともに後席の居住性は快適で、4WDとの相乗効果により走行安定性も優れていたが、従来とは走りの性格が大きく変わった。
商品力は高くても、売れ筋路線を離れ、登録台数も下がって廃止された。コロナ禍の影響を受けていない2019年の時点で、レガシィB4の登録台数は、1か月平均で100台を下まわっていた。
ホンダ シビックセダン
シビックは、ホンダとしては最初の量販小型乗用車だ。初代モデルは希薄燃焼方式のCVCCで排出ガス規制に対応しており、1983年に発売された3代目は、スマートで空間効率の優れたボディが人気を呼んだ。
1997年には6代目にタイプRを加えるなど、シビックは5ナンバーサイズの3ドアハッチバックを基本に、多彩な商品開発を行って若年層の支持も高かった。
ところが2000年に発売された7代目では、3ドアが海外向けになり、国内は5ドアとセダンになった。2001年には合理的な初代フィットが登場して好調に売れたから、シビックは顧客を奪われた。
2005年に発売された8代目は、3ナンバーセダン専用車になって売れ行きを一層下げてしまう。2010年にシビックは国内販売を終了。イギリス製のタイプRを輸入したが、少数に留まった。
それが2017年になると、シビックは国内販売を再開した。切っ掛けはセダンを寄居工場でも製造するようになったことだ。ハッチバックとタイプRはイギリスから輸入してグレード構成を整えた。
2019年の登録台数は、1か月平均で900台少々になる。今のホンダの国内販売では、軽自動車が約半数を占めるので、ホンダのブランドイメージも小さなクルマに移った。ミドルサイズのシビックは売れ行きを伸ばせない。
しかも販売の内訳は、ハッチバック:59%、タイプR:24%、セダン:17%で、セダンの登録台数は月平均で約150台と低迷した。その結果、シビックセダンは廃止された。
ホンダはシビックの国内販売を一度終えたから、販売しにくい商品であることは認識していた。それなのに魅力的な特別仕様車の投入など、有効な販売促進対策を行っていない。
シビックセダンは2回目の廃止になるので、今後国内で販売される見込みはない。計画性の乏しい場当たり的な対応が、寂しい結果を招いた。
日産 シルフィ
最初のシルフィは、2000年にブルーバードシルフィとして設定された。この時点ではひとまわり大きなブルーバードも売られていたが、2005年にフルモデルチェンジを行い、車内の広い5ナンバーセダンのブルーバードシルフィに統合された。
運転のしやすさと後席を含めた快適な居住性を両立させ、2006年には1か月平均で2000~3000台が登録された。
ところが2012年発売の現行型は売れ行きを下げた。3ナンバー車に拡大されて特徴が薄れ、発売当時は好調にクルマを売るための必須条件だったエコカー減税にも漏れたからだ。2019年の登録台数は、月平均で150台程度であった。
そのため海外では2019年に新型シルフィが披露され、外観もカッコ良くなったのに日本国内で販売する予定はない。
シビックやレガシィB4を含めて、セダンの人気が低迷して売れ行きも下がり、それを見過ごしたことで最終的に廃止された。
セダンの廃止は、国内市場に取り組む各メーカーの姿勢によるものだ。販売しやすい車種だけに注力するから、軽自動車の販売比率が37%に達した。
軽自動車やSUVが伸びても、セダンやワゴンの低迷が災いして、国内販売は回復しない。
このほかにも多数絶版に! 2020年の生産終了車は?
●レクサス GS
GSは2005年に日本でレクサスが開業した時から用意されていた主力車種だ。後輪駆動のセダンで、ISとLSの中間に位置する。2018年にほぼ同じサイズで車内の広いESが加わったこともあり、GSは廃止された。
ただしESは前輪駆動、GSは後輪駆動だ。今は駆動方式で商品力は左右されないが、プレミアムブランドにとって大切な運転感覚の違いは依然として残る。
特に現行LSは、全長が5235mm、全幅も1900mmに拡大された。先代LSのユーザーからは「自宅の車庫に収まらない」という声も聞かれる。GSの車名を踏襲するか否かは別にして、レクサスには先代LSの顧客が乗り替えられる後輪駆動のプレミアムセダンが必要だ。
●ホンダ グレイス
先代フィットと基本部分を共通化した5ナンバーサイズのコンパクトセダンだが、後席の足元空間は3ナンバー車並みに広い。実用性や経済性だけでなく、コンパクトセダンとしては、乗り心地と安定性も優れていた。
しかし、雰囲気が地味で販売にも力が入らず、2019年の登録台数は月平均で約530台と低迷した。その結果、終了している。
●ホンダ ジェイド
3ナンバーサイズの3列シート車で、2015年の発売時点では、1か月の販売計画を3000台に設定していた。ところが2017年の月平均は166台で、わずか2年後に売れ行きは目標値の5.5%まで下がった。
敗因はミニバンとしては車内が狭く使いにくいことだ。3列目は窮屈な補助席で、2列目も座面の奥行寸法が短い。満足に座れるのは1列目のみだった。
本来なら走行性能の優れた5ドアハッチバックとして売るべきだったが、市場ではミニバンと受け取られ失敗している。
2018年には改良を施して2列シートも加えた。この後席は3列シート車の2列目に比べると大幅に快適で、RSは走行性能も優れていたが、販売は回復しなかった。
●スズキ バレーノ
インド製の5ドアハッチバックで、現地では上級車種とされる。全長はインドの税制で有利な4m以下に抑えたが、全幅は少しワイドな3ナンバー車だ。ベーシックな欧州車に似た持ち味があったが、売れ行きは伸びず廃止された。
●トヨタ ポルテ/スペイド
全長が4m以内に収まる背の高いコンパクトカーで、左側には1枚のスライドドア、右側には2枚の横開きドアを装着した。
スライドドア部分の床面地上高は、高齢者が無理なく乗り降りできる300mmに抑えられ、助手席の乗降性は抜群だ。車種自体に福祉車両の性格を持たせた。
助手席を前側に寄せて、後席の座面を持ち上げると、スライドドアから車内の中央に大きな荷物を積むことも可能だったが、一般的な機能ではない。
ハイブリッドも用意されず、2019年の登録台数は、ポルテが1か月平均で420台、スペイドは250台程度と低迷して廃止された。優れた商品だったので残念だ。
●ホンダ N-BOXスラッシュ
デザイナーが先代N-BOXをベースに、ルーフを低く抑えた仕様のスケッチを描いたところ「これは面白い」という話になって商品化された。いかにも自由な雰囲気のホンダらしいエピソードだ。
内装にも複数の仕様を設け、上質なオーディオを楽しめる遮音性能を高めたタイプも設定した。電子制御式パーキングブレーキも採用している。それでも一種のアイデア商品だから、後継車種は登場していない。