【AT操作の嘘と本当】完全に停まってからRやPに入れないと壊れるのか!?

【AT操作の嘘と本当】完全に停まってからRやPに入れないと壊れるのか!?

 普段オートマチック車(CVT含む)の愛車に乗っていると、何気なくやってしまいがちな操作が、車庫入れなどの際、きちんとクルマを停止せずに、シフトレバーをD(ドライブ)からR(リバース)に入れてしまうこと。

 逆のRからDへの操作もしかりだが、ゆっくりとはいえ、クルマが動いている時にシフトチェンジすることは、昔からATを壊すため、やってはいけないと言われてきた。

 はたして今でも本当にそうなのか? そこでAT生産メーカーとして世界的に知られるアイシン・エィ・ダブリュの技術本部に勤めるエンジニア に直撃した!

文/野里卓也
写真/野里卓也 アイシン・エィ・ダブリュ Adobe Stock

【画像ギャラリー】まだまだあるAT操作の嘘ほんと「上り坂でDレンジのままバックするとエンストする?」


まずはオートマチックの仕組みを解説

大型スーパーの混みあっている駐車場で、後ろに駐車するのを待っているクルマがいると、焦って完全にクルマが停まっていない状態でRからD、あるいはDからRに入れてしまうことありませんか?
大型スーパーの混みあっている駐車場で、後ろに駐車するのを待っているクルマがいると、焦って完全にクルマが停まっていない状態でRからD、あるいはDからRに入れてしまうことありませんか?

 筆者は、免許を取得してから今まで、愛車(AT)を駐車する際、必ず停車してからRやDにシフトチェンジしてきた。

 「クルマが動いた状態でRやDにシフトチェンジするとATが壊れる」と耳にタコができるくらい聞かされてきたからだ。

 さて、その操作自体はクルマにどの程度、負荷を強いるものなのか? クルマが動いている状態で、RやDにシフトチェンジすると、壊れるのか? その答えを紹介する前にまずはオートマチックの仕組みを少しだけ解説したい。

 AT機構の断面図は左からエンジンからの動力をミッション機構へ伝達するトルクコンバーター、中央には変速を担うプラネタリーギア、右側には車軸(プロペラシャフト)へ動力を変換するアウトプットシャフトがある。

プラネタリーギアはトランスミッション内部でこのように収まっている
プラネタリーギアはトランスミッション内部でこのように収まっている

 さて、ATの要といえる、変速ギアの役目を果たしている遊星歯車はプラネタリーギアとも呼ばれている。

 3種類の歯車で構成され、中心の歯車(サンギア)とその周囲には複数の歯車(ピニオンギア)があり、内側に歯車がある内歯車(リングギア)の中で回転している。

 中央を通る軸は前がエンジンからの入力軸、後ろが車軸に伝える出力軸となる。入力軸はサンギアと連結しており、出力軸は3つのピニオンギアと連結している。

 そして、この「プラネタリーギヤ」に動力の断続を行う「油圧クラッチ」、クラッチドラムを固定する働きをする「ブレーキ」、1方向にだけ回転する「ワンウェイクラッチ」を組み合わせ、これらを「油圧ピストン」で順次作動させることで変速が行われている。

 このため、ATセレクターレバーを動かすと、そのつど油圧回路が切り替えられ、「油圧クラッチ」が切れたり入ったりする。停車時にNレンジからDレンジに入れた時にエンジンの回転数が下がり、駆動力がつながってグッと前に動こうとする。

 これが「油圧クラッチ」の断続に伴う挙動で、走行中の連続的な負荷より、停止時の断続的な負荷・衝撃のほうが機械への負荷が高くなる。

 さらに、頻繁にレンジを切り替えたり、駐車時の際、クルマが停なっていない状態でRからDレンジに入れると、クラッチ板が減りやすくなり、摩耗粉が油圧経路に回ればシフト不能になるなど、油圧制御機構のトラブルの原因になる……と、昭和に誕生したクルマのAT車はそう言われていた。

 最近ではトランスミッション内部に上記のセット(ギア)を複数備え、なおかつプラネタリーギアを数多く設けることでギアを多段化し、滑らかで力強い走りを実現している。

 一方、CVTの場合は動力を伝達する機構が金属ベルトとプーリーを使った方法に変わる。車速によってプーリーの直径が変化して発進時から高速走行まで無段階に変速されるのが特徴。

 しかし、一番のポイントはエンジンの燃焼効率が一番良いところを保ったまま車速を上げることができること。

 ATのようにプラネタリーギアを使った変速機構はないが、前進と後退を切り替えるためにプラネタリーギアを設けている。

次ページは : アイシン・エィ・ダブリュのエンジニアに直撃!

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