2020年8月下旬、ホンダの都市型EVコミューター、ホンダeが正式発表される。
すでにホンダeの概要については、2020年8月5日に発表されているが、そのなかで、気がかりというか、最も気になったのが1充電あたりの航続距離。
ホンダeの電気モーターは、154ps/32.1kgmを発生し、バッテリー容量は35kWh。1充電あたりの航続距離はWLTCモードで283km、JC08モードで308kmとアナウンスされている。
1充電あたりの航続距離は以下の通り、リーフと比べると控え目な数値だ。ホンダeの航続距離は、リーフの40kWh仕様と比べ39km短く、リーフの62kWh仕様と比べ175kmも短いのだ。
■ホンダe(35kWh):WLTCモード/283km、JC08モード/308km
■リーフ(62kWh):WLTCモード/458km、JC08モード/570km
■リーフ(40kWh):WLTCモード/322km、JC08モード/400km
ホンダが総力を挙げて開発した最新EVだから、1充電あたりの航続距離は既存のEVを上回ると思っていた人も多いはずだ。
そこで、ホンダはなぜ、ホンダeの航続距離をあえて短くしたのか? モータージャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説する。
文/渡辺陽一郎
写真/ベストカーweb編集部 ホンダ
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ホンダeの航続距離をあえて短くした理由
2020年1~6月にホンダが日本国内で販売した小型/普通車の内、ハイブリッドが56%を占めた。
ホンダで人気の高いフィット、フリード、ヴェゼルなどにはすべてハイブリッドが用意され、インサイトのようなハイブリッド専用車もある。その結果、小型/普通車ではハイブリッド比率が高まった。
しかしモーター駆動を使うカテゴリーのなかで、ハイブリッド以外はほとんど売れていない。
ホンダはプラグインハイブリッドのクラリティPHEVも用意するが、この登録台数は2020年1~6月の累計で15台程度だ。
その意味で注目されるのが、2020年8月5日に概要が公開されたホンダeだろう。正式発表は8月下旬で、価格や発表、発売日などについては正式発表日に明らかにされる。
ホンダeはエンジンを搭載しない純粋な電気自動車で、ボディサイズは全長3895×全幅1750×全高1512mm(欧州仕様)とコンパクトに抑えた。
モーターの出力は、最高出力が113kW(154ps)、最大トルクが315Nm(32.1kgm)とされる。
駆動用リチウムイオン電池の容量は35.5kWhで、1回の充電で走行可能な航続可能距離は、WLTCモード走行で283km、JC08モードでは308kmとされている。
ここで疑問に思うのが、リチウムイオン電池の容量と航続可能距離だ。
リーフの場合は、リチウムイオン電池の容量が40kWhの仕様と、62kWhを用意した。ベーシックな40kWhの場合、モーターの最高出力は110kW(150ps)、最大トルクは320Nm(32.6kgm)だから、動力性能はホンダeとほぼ同じだ。
しかし航続可能距離は異なる。リーフのリチウムイオン電池容量は40kWhだから、WLTCモード走行で322km、JC08モードなら400kmに達する。
リチウムイオン電池が35.5kWhのホンダeは、前述の通りWLTCモードが283km、JC08モードで308kmだから、航続可能距離はリーフの70~80%にとどまる。
ホンダeのリチウムイオン電池は、なぜリーフの40kWhと比べても容量が小さく、航続可能距離も短いのか、開発者に尋ねてみた。
「従来の電気自動車は、ガソリンエンジンと同等の能力を目指して開発されてきました。
いわばエンジンをモーターに変更したのが電気自動車ですので、1回の充電で走れる距離の短いことが一番の欠点とされました。電気自動車をエンジンを積んだクルマの延長線上に置いていたわけです。
ホンダeはこの考え方を改めました。街中で小さくて使いやすい、スマートフォンのようなクルマを想定したのです」。
さらにこう続ける。
「航続距離は街中メインに乗ることを想定していますので充分だと思っています。
実は1充電あたりの航続距離がホンダeより長いリーフのバッテリーは容量型といわれていて一気に充電できません。
ホンダeに採用したパナソニック製バッテリーはバランス型といわれていて、急速充電能力が高いのが特徴です。
ホンダeは、この充電能力が高さを利用して、小さくて使い勝手がよく、充電警告灯がついて、いざとなったら30分の急速充電で200km走れる、というのがコンセプトです。
ホンダeのサイズ、Bセグメントのボディに大きいバッテリーを入れるのは、ナンセンスです。バッテリーお化けになってしまいますから」。
充電に要する時間と充電量の目安は、急速充電設備・CHAdeMO50kw以上で30分。30分急速充電で202km走行できるという。
家庭用/公共AC充電コンセントは、タイプ1~3.1kwで9.6時間以上、タイプ1~6.0kwが5.2時間以上となっている。
表1にある他社EV車A、リーフの40kWhは144km、62kWhは137km。他社EV車BのBMW i3は192km、他社EV車Cの三菱i-MiEVは約180kmと出ている。これを見ると、ホンダeの急速充電性能がいかに高いかがわかる。
もともと電気自動車の世界観はエコロジーだ。この考え方に立つと、遠方への外出は、公共の交通機関を利用するのが理想だろう。個人がクルマで移動するよりも、消費するエネルギーを小さく抑えられるからだ。
この世界観におけるクルマの役割は、公共の交通機関ではカバーしにくい日常的な買い物、通勤、通院といった短距離の移動だ。
長距離を移動する時は、電気自動車で最寄の駅までクルマで出かけ、そこから公共の交通機関に乗り換えるパーク&ライドのような使い方になる。
仮に遠方までクルマで出かけるとしても、そこで使われるのは、電気自動車ではなくハイブリッドやクリーンディーゼルターボだ。
日産の販売店でリーフの使われ方について尋ねると「2台のクルマを併用するお客様が多い」という。電気自動車のリーフは比較的短い距離の移動に使い、遠方まで出かける時は別のクルマに乗る、という使い方だ。
そして日本では総世帯数の約40%が集合住宅に住むから、自宅に充電設備を設置しにくい。電気自動車を所有しやすいのは一戸建ての世帯で、マンションに比べると駐車スペースにも余裕が生じる。2台のクルマを持ちやすい。
このようなセカンドカーの所有形態、あるいはクルマと公共交通機関を効率良く使い分ける考え方に基づくと、電気自動車が1回の充電で400kmから500kmを走行できる必要性は薄れる。その代わり街中を中心に走るクルマとして、コンパクトで運転しやすいことが求められる。
またリチウムイオン電池の容量が小さければ、車両重量とボディサイズも抑えられる。逆に航続可能距離を伸ばすためにリチウムイオン電池を拡大すると、ボディも重くなってしまう。
そうなるとモーターのパワーアップも求められ、リチウムイオン電池をさらに大きくする悪循環に陥る。
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