前輪と後輪それぞれに加わる重量の比率を「前後方向の重量配分」と言い、50:50などの数値で表記する。もちろんクルマのさまざまな要素によって重量配分は変化するが、前後が均等になる50:50が理想的との意見も多い。
では、なぜ50:50がいいのか? そしてその重量配分を実現した車種は何か? 比率の異なるクルマも例にしながら見ていくことにしよう。
文/長谷川 敦 写真/マツダ、トヨタ、BMW、ポルシェ、ランボルギーニ、スズキ、アストンマーティン、日産
【画像ギャラリー】走りを極めるなら50:50がベスト?(15枚)画像ギャラリー重量配分によって何が変わるのか?
前後重量配分はクルマのハンドリング特性に影響を与える。前が重いクルマは鋭い回頭性が得られず、ドライバーのイメージよりもコーナーを大きく回ってしまうアンダーステアを誘発しやすい。逆に前が軽いと回頭性は高まるものの、テールスライドしてしまうこともある。これは、重量のあるものの向きを変えるには大きな力が必要になり、同時に動いている重いものを止めるにもまた大きな力が要求されることが理由だ。
フロントヘビーのクルマは直進状態から向きを変える際に重さがネックになっていわゆる“曲がらない”状態になり、一度滑り出してしまうと、重量からくる慣性の大きさによって、それを止めるのに苦労する。前が重いクルマがアンダーステアになりやすいのは、このような力学が働いているから。
その点前後重量配分が50:50のクルマはバランスがよく、素直で扱いやすい操縦性を発揮すると言われている。ただし、ここで言う重量配分とはあくまで静止状態でのことで、走行中の加速やブレーキングなどによってクルマの各タイヤに加わる荷重は常に変化する。前後方向だけでなく、コーナーでは左右タイヤの荷重も変わるので注意が必要。
とはいえ、クルマの基本的な特性を決めるうえで前後重量配分が重要なのは間違いなく、それゆえに各メーカーも、クルマを設計する際には理想とする重量配分になるよう考慮するのだ。
50:50にコダわるマツダの矜持
マツダ製ライトウェイトスポーツカーのロードスター。現行モデルで4代目となるこのロードスターは、初代モデルから重量配分50:50を目標に設計されている。これはもちろんマツダが50:50を理想的だと考えているから。
初代モデルのユーノス ロードスターが発売されたのは1989年。運転していて楽しいライトウェイトスポーツカーを目指して開発されたロードスターは、フロント車軸よりも後ろにエンジンを搭載するFRレイアウトを採用したことにより50:50の重量配分を実現した。
狙い通りにロードスターのハンドリングは軽快感の高いものとなり、高評価を獲得した。もちろん重量配分だけでなく足回りの設計やボディ剛性、エンジンの特性なども操縦性のよさに貢献しているのは間違いないが、重量配分も重要な要素となっている。
現行の4代目ND型ロードスターでも前後重量配分50:50は継承されている。これはもはやロードスターのアイデンティティとさえ言えるだろう。
マツダのスポーツカーと言えば、RX-7の存在も忘れてはいけない。RX-7ではロータリーエンジンやボディスタイルに注目が集まりがちだが、実はロードスター同様に重量配分にも気が配られている。
1978年に登場した初代サバンナRX-7では、レシプロに比べて全長の短いロータリーエンジンの特徴を生かしてフロントミドシップデザインが採用された。駆動レイアウトはFRで、2名乗車時にフロント/50.7、リア/49.3というほぼ理想的な重量配分を現実化している。
2代目RX-7の発売は1985年。開発コンセプトは「心地よい緊張感が感じられるクルマ」であり、それを実現するのに50:50の重量配分達成は欠かせなかった。エンジンが初代の12A型から13B型になるなどの変更はあったが、完成した2代目FC型RX-7の前後重量配分は50.5:49.5に仕上がっている。
RX-7シリーズ最後のモデルとなるFD型は1991年にリリースされた。このモデルから3ナンバー専用サイズとなったが、拡大されたのは全幅のみであり、全長、全高、ホイールベースは先代モデルより小さくなっている。そのため50:50の重量配分は維持され、このFD型のハンドリングも高く評価されることになった。
コメント
コメントの使い方