『頭文字D』群馬vs埼玉頂上決戦!カプチーノvsハチロクの名勝負

 クルママンガの金字塔『頭文字D』(しげの秀一著)のなかでも「名勝負」といえるバトルを紹介する本連載企画、今回ご紹介するバトルは、群馬対埼玉の頂上決戦! 埼玉ドリームチームは、前回プロジェクトDに敗れた秋山延彦を司令塔に据え、ヒルクライムは因縁のハチロク乗り・秋山渉が出場。そして注目のダウンヒルでは、拓海のハチロクを苦しめる意外過ぎるマシンが登場して、驚愕の展開に!
(第24巻 Vol.293「死闘のゴング」~Vol.305「スーパーチャージドレビン」より)。
文:安藤修也 マンガ:しげの秀一

■連載第1回 激闘の「vs.RX-7(FD3S)編
■連載第2回 ハンデ戦「vs.シビック(EG6)編」
■連載第3回 至高の存在「vs.RX-7(FC3D)編」
■連載第4回 因縁の「vs.ランエボIV編」
■連載第5回 高橋涼介大活躍 「RX-7対ランエボIII編」
■連載第6回 エンジン載せ替え対決「ハチロク対ハチロク編」
■連載第7回 ついに拓海がプロと対決「vs.シビックR編」
■連載第8回 名車と恋の行方編「RX-7vs.RX-7編」

【登場車種】

■先行:スズキ・カプチーノ
→ドライバーは坂本某(下の名前は作中に登場せず)。カテゴリーはわからないがラリーストで、秋山渉の旧友。今回のカプチーノは彼の愛車ではなく、延彦が用意した車両。タービン交換等で最高出力130PSを発揮する。

■後追い:トヨタ・スプリンタートレノ(AE86型)
→ドライバーは藤原拓海。「プロジェクトD」のダウンヒル(下り)担当。父親が新たな愛車を買うということで、ついにハチロクを自分の愛車とした。こういうことがあると、ますます愛着が沸く、というのはクルマ好きならわかる話。

【バトルまでのあらすじ】

 前回のバトル(延彦&恭子のチームvsプロジェクトD戦)ではプロジェクトDに完敗したものの、延彦はハチロクに勝つための秘策を得たという。それは、これまでの対戦相手が誰も使わなかった、“軽さ”だった。今回、選ばれたマシンは、軽スポーツカー史上に燦然と輝く名車、カプチーノである!(もちろんチューニング済み!)

 ということで、これまで存在してきた、「弱者としてのハチロクvs強烈なライバルマシン」という構図が変わった今回のバトル。この状況で興奮しない読者はいないだろうが、乗車するのが坂本というラリードライバー。どんな狭い道でもとりあえずドリフトするのが信条で、ホイールベースが短いためにスピンしやすいカプチーノを手足のように振り回すという強敵だ。

『頭文字D』24巻(しげの秀一著)

 コースは、埼玉は秩父寄りのタイトな峠道、しかも天候は雨。「コンディションが悪くなれば軽さが武器になる」(延彦談)、「夜の峠に降る雨は、視界が奪われるネガティブな要素の集合体。そういう状況では、ドラテクを超えたプラスアルファの能力が問われる」(涼介談)と、どちらの軍師さまも雨が自チームに味方すると期待している。埼玉チームによる、「ハチロク崩し」は成功するのか? ヘビーウェットのラフコンディションのなか、スタートは切られることになった。

『頭文字D』24巻(しげの秀一著)

【バトル考察】

 先行を選んだのは坂本。「ラリー屋は追いかけっこは専門じゃないし、勝負を長引かせたくない」のが理由だ。一方、追う拓海は、スタート前に涼介から「コーナーで離されてストレートで追っかける展開になる。今までとは正反対の発想が勝利のカギだ!!」とアドバイスを受ける。

 案の定、スタートするなり、コーナーでグイグイと引き離され、思わず拓海の口から「どうすりゃいいのか…まったくわからない…!!」と弱音がこぼれる(いつものことだが)。それもそのはず、先行車と同速度でコーナーに突っ込めないというのは、拓海にとって衝撃的なことである。

『頭文字D』24巻(しげの秀一著)

 わずか750キロ強のカプチーノはウェイトで圧倒的に有利。さらに日頃から悪路を走り慣れている坂本は、「コントロールできないアンダーステアより、コントロールできるオーバーステアをはじめから作っておくんだ…」と、4輪ドリフトで駆け抜ける。拓海がアイデンティティの崩壊にもがき苦しむ一方で、坂本はその一挙手一投足に一切の躊躇がない。

 どちらもアクロバティックなテクニックを得意とし、理論的なドライバーではないもの同士。実は二人のドライバーの気質は似ている。さらに、軽量なコンパクトカーというマシンの性質も同じベクトルを向いている。そうなれば、より軽量なカプチーノが有利になるのは必須であり、これまでコーナリングで勝ってきた拓海からすれば、ストレス極まりないシチュエーションなのである。

 バトルは後半に入り、勾配が弱くなる中高速区間へと移行する。前半でもっと差をつけておきたかった坂本としては、執拗についてきているハチロクに不穏なものを感じ始める。さらに、ハチロクはここにきて走り方を変えてくる。コーナー入口で十分減速をして、早めに車体の向きを変え、アクセルを踏む時間を長くする。コーナーを捨てて加速重視とした。これはかつてのライバル、ランエボを駆る須藤京一の戦術であった。

『頭文字D』24巻(しげの秀一著)

 坂本からすれば、この状況下で差を詰めてくるハチロクはアウトサイダーであり、「頼りないフロントのグリップを探りながら目一杯」走ってる以上、これ以上のプッシュはスリリングな挑戦となる。「あいつには怖さってものがないのか…オレは怖いぜ」と、ついに不安を滲ませる坂本。次第にパニックに陥る彼の口からこぼれた手書き文字のセリフ「バケモンかよてめえは!?」がパワフルな印象で、読者を引き込む!

 引き離すのではなく、抜かせない作戦に切り替えたカプチーノ。一方、真後ろにつけて、水けむりの煙幕で視界が消されようともアグレッシブに攻めるハチロク。勝負を決めたのは、なんら難解なものではなく、拓海の覚悟だ。スタート時からこのバトルの根底に横たわっていたのは、2人のドライバーのプライド。ライトウェイトスポーツ同士のバトルながら、ヘビーなプライドであった。

 コース終盤の平坦なストレート、相手の最大の武器である“軽さ”が武器にならない場所で抜きにいく。自分よりコーナーが速いカプチーノにどこか嫉妬しているような感情を抱き続けてきた拓海だったが、その過程でさまざまな衝動を感じつつ、このストレートで抜くことに躊躇しながらも、ついに得意のステルス走行で抜きさった。

 一見、読者まで置いてけぼりを食ったような展開だが、バトル後、涼介の秀逸なセリフがすべてを収束させる。曰く、「ドライバーの仕事はクルマの潜在能力を引き出して走ってやること。相手のクルマより勝っているポイントがひとつでもあれば、そのひとつを武器にして攻めるのみだ」。

 これまで次から次へと強いマシンが現れて、閉塞感にあえぎそうだったストーリー展開にひとすじの風を吹かせてくれたのは、カプチーノという名車だった。拓海の成長に大きな影響を与えただけでなく、誕生から30年が経とうとしている現在でも、その存在感は見た目と違って巨大であり続けている。

■掲載巻と最新刊情報

『頭文字D』24巻(しげの秀一著)
『頭文字D』24巻(しげの秀一著)
『MFゴースト』8巻(しげの秀一著)
『MFゴースト』8巻(しげの秀一著)

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