ベンツ工場でエンジン生産終了! ドイツの内燃機関技術はこのまま死に絶えるのか?

■内燃機関が切り捨てられたと考えるのは早計!

ベンツのベルリン工場
ベンツのベルリン工場

 新聞とかニュースサイトの記事はここで終わりとなるのだが、ではダイムラーがマリエンフェルデ工場でどんなエンジンを造っていたかを調べてみると、S600用のV12や、V8ディーゼル(OM628)、スマート向けエンジンなど、古い機種の生産がメイン。

 コロナ禍もあって最近は稼働率も低く、切り捨てても惜しくない旧式かつマイナーなエンジン工場だったというのが実態のようだ。

 だから、このニュースを読んで「ダイムラーもいよいよ内燃機関切り捨てに舵を切ったか」と考えるのは早計だ。

 新しい直6系など付加価値の高い機種については、エンジン生産の主力となるウンターテュルクハイム工場に集約する一方で、付加価値の低いエントリーモデル用エンジンは、1.3Lダウンサイズターボをルノー日産とダイムラーで共同開発。これはルノーのスペイン工場で生産する。

 そのほかにも、ボルボとその親会社吉利汽車(ジーリー)がエンジン部門を統合して分離独立させる構想を発表しているが、中国市場向けのエンジンはダイムラーもそこから調達すると考えるのが自然だ。吉利汽車はダイムラーの株式を約10%保有する筆頭株主なんだから。

 こういった内情を見てゆくと、単純にエンジン工場を電動パワートレーンに転換したのではなく、儲からなくなった古いエンジン工場をリストラし、付加価値の低い低価格モデル用エンジンを外部調達に置き換えているのがダイムラーの内燃機関戦略だということがわかる。

■CO2削減の嵐にさらされる自動車業界

自工会会見でエネルギー政策や雇用対策についての問題提起を行った豊田章男会長(写真は自工会ホームページより)
自工会会見でエネルギー政策や雇用対策についての問題提起を行った豊田章男会長(写真は自工会ホームページより)

 いま欧州で吹き荒れているCO2削減の嵐で、もっとも逆風にさらされているのが自動車業界。

 VWがやらかしたディーゼル不正事件の影響は深刻で、たとえ正論であっても自動車業界が世論にものを言える空気ではない。最近のVWを見ればわかるが、「禊」という意味でひたすらEVに注力するしか、ほかに打つ手がないというのが実態だ。

 だから、広くプレスにアピールするニュースリリースには、とにかく電動化に前向きなネタをかき集めて発表する。ある種、世論に対する懐柔策ではあるのだけれど、もはや欧州の自動車メーカーはそれをやらないといつ世論のバッシングにあうかわからないほど立場が弱いのだ。

 日本では最近ようやく「火力発電7割以上の現状では、カーボンニュートラルなんて絵に描いた餅」という議論がはじまって、自工会会長としての立場で豊田章男社長がエネルギー政策や雇用対策についての問題提起を行った。

 これは、政府の2050年カーボンニュートラル政策に呼応した発言だが、同時に欧州主導で進む過剰な内燃機関バッシングへの危機感もある。

 ライフサイクルアセスメント(LCA)ベースでCO2排出量をカウントするとか、それに応じた国境炭素税の提案とか、EUの狙いは明らかに自分たちが有利になるようなルール変更。表立っては公言しないが、ゴールポストを動かすのもいい加減にしろという不満がないはずはない。

 いずれにせよ、経済的な合理性を無視した政策を強行すれば、いずれ国民がそのツケを払わなければならないというのは、日本もヨーロッパも同じ。電力料金の問題や、雇用の問題、急激なEVシフトなど、日本の現状を踏まえた議論をちゃんとやりましょうという勇気ある提案だったと思う。

次ページは : ■自動車のCO2削減で世界最先端を走っているのは日本メーカー

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