長嶋茂雄の豪快な三振の如く―― 三菱スタリオンの魅力と知られざる真実

■映画での勇姿とラリーでの活躍

 が、ソアラと違ってスタリオンは、海外に輸出されていた。当時三菱と提携関係にあったクライスラーから、「コンクエスト」の名前で販売もされていた国際派だったのだ。そしてハリウッドのB級大作『キャノンボール2』(1984年公開)に、日本車として唯一起用され、ジャッキー・チェン(日本人役)が乗って、カウンタックやコルベットと戦ったのである!

 私は日本代表・スタリオンの活躍が見たくて、わざわざ映画館まで足を運んだ。カウンタックやコルベットにはまったく興味はなく、ただスタリオンだけが見たかった。

 映画の中のスタリオンは、脇役ながら、コンピュータで武装した日本製ハイテクマシンという、いかにも当時のステレオタイプな描き方をされていて、私は嬉しさと恥ずかしさでいっぱいになった。そして、スタリオンが映画の前半でリタイヤを喫して消えたのを、悔しく思ったものだ。

 国内ではヒットモデルにならなかったスタリオンだが、海外市場で比較的好評だったこともあり、三菱のフラッグシップモデルとして長命を保った。日本車として始めてターボに空冷インタークラーを装着し、最後は2.6Lターボまで搭載して、1990年まで存続した。

 モータースポーツでも活躍した。レースでは、グループAカテゴリーを中心に活動し、1985年の富士インターTECでは、中谷明彦/高橋国光組のスタリオンが大奮闘。その後も中谷氏はスタリオンを「すごいクルマだった」と、高く評価し続けたものである。

「スタリオン4WDラリー」としてラリーにも参戦。フラッグシップらしい活躍を見せた
「スタリオン4WDラリー」としてラリーにも参戦。フラッグシップらしい活躍を見せた

 ラリーは三菱の得意種目だけに、三菱は発売翌年には早くも、「スタリオン4WDラリー」を発表した。それまで市販モデルのスタリオンは後輪駆動のみだったが、それをビスカスカップリングで4WD化。ラリーに邪魔なロングノーズは切り落とされ、リトラは丸形4灯に。その顔つきは、市販モデルよりもはるかに精悍だった。

 結局4WDモデルは市販化されず、ラリーへの本格参戦はかなわなかったが、いくつかの海外ラリーに出場して三菱のスポーツ4WD技術開発の基礎を作り、その後のギャランやランサーのWRC大活躍へとつなげたのである。

■試乗して骨太な走りを実感!

 そんなスタリオンに私が初めて乗ることができたのは、発売から30年近くを経てからのことだった。乗ったのは、後期型の2.6Lターボ。「2600GSR-VR」の4速AT仕様である。グレード名からして、なんともガンダム的で三菱らしい。

 インテリアは、昭和末期を飾るにふさわしく、愕然とするような直線だらけのテクノ調だった。まさに元祖ガンダム系のテイストに、取材スタッフは皆「すごいなあ、すごいなあ」と、感動して笑った。

 いよいよ試乗だ。私は生涯初めてスタリオンのステアリングを握り、Dレンジで発進した。

 それは、新鮮な驚きだった。わずか175馬力の2.6Lターボは、トルクフルで十分速い。ボディも意外なほどしっかりしており、なによりもハンドリングがいい。このステアリングの精度やレスポンスの良さはなんだろう。20年前(試乗当時)のクルマとは思えない。

 ああ、このクルマは、実に一生懸命作られている。三菱は今も昔も、骨太な技術で勝負するメーカーなのだ……。スタリオンのトライは、全面的に成功したわけではないけれど、しかしこのクルマには、人の心を打つ愚直さがある。そして、さまざまな実績を残した名車なのだ。

残念ながら車名を継ぐモデルがないまま1990年で販売終了となったが、同年、GTOがデビューしている
残念ながら車名を継ぐモデルがないまま1990年で販売終了となったが、同年、GTOがデビューしている

 現在、スタリオンの流通台数は全国で数台になっている。その多くが、後期型の2.6Lターボモデル。相場は200万円台から300万円台に集中している。

 現在、スタリオンが目の前に登場すれば、クルマ好きなら歓声を上げずにはいられないはずだ。そのどこか子どもっぽい元祖ガンダムデザインは、40年を経た今見れば、長嶋茂雄の豪快な三振のように見えるのではないだろうか。オーナーには必ずや、尊敬の眼差しが注がれることだろう。

【画像ギャラリー】心躍ったあの名車・スタリオンのスタイリングを写真で見る!(10枚)画像ギャラリー

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