レクサスLMが話題を集めた上海自動車ショーだが、その陰で衝撃的なコンパクトEVがデビューしていた。その名はBYDシーガル。30kWのバッテリーを積み、なんと価格が145万円というのだ。こいつが上陸したら、日本車は太刀打ちできるのか? 会場でクルマを間近に見たジャーナリストがその破壊力を語る!
文/佐藤耕一、写真/佐藤耕一、BYD、
■派手な演出もなくポツンと置かれた「小さな巨人」
4月に開催された上海モーターショーでは、華やかなニューモデルやコンセプトカーが大々的に発表された。そんな派手さを避けるかのように、展示フロアの平場の一角に1台の1台のコンパクトカーが展示されている。しかしこれこそがBYDの誇る小さな巨人、「シーガル」(海鴎=カモメの意味)なのだ。
派手なお披露目イベントこそなかったものの、シーガルの展示スペースは、業界関係者と思しき外国人が常に取り囲み、細かいところまで舐めるようにチェックしていた。このクルマが普通ではないことを物語る光景だ。
ではなぜ、シーガルはこのように注目を集めたのか。それには3つの理由があるように思う。それぞれ具体的に説明していこう。
■その1:コンパクトながら大人4人がしっかり座れるパッケージ
EVのパッケージを考える際に最も難しい問題は、フロアが高くなってしまうことだ。バッテリーを床下に敷き詰めるため、どうしてもフロアが高くなってしまう。
フロアが高くなると、フロアから座面までの高さが十分でなくなる。そうなると何が起こるかと言うと、太ももの裏側が座面から浮いてしまい、体重がうまくシートに分散されずに疲れやすくなったり、シートのホールドが甘くなり、身体の揺れが収まりにくくなる。これが疲労につながるのだ。
ではどうするか。ルーフを高くして車室高を確保するか、シートバックを寝かせて、後傾ぎみの乗車姿勢にするか、だろう。しかしこれはいずれも、ボディを大きくする方向の対策だ。それゆえに、コンパクトなEVのパッケージングは難しい。
ところがこのシーガルに実際に乗り込んでみたところ、フロアが低いのだ。前席はもちろん、ごまかしの効かないリアシートのフロアも十分に低い。ニールームも十分で、前席との間隔もこぶし2つ分ほど確保されている。
そのため、乗車姿勢をアップライトに保つことができ、全長3780mmというコンパクトカーでありながら、大人4人がきちんと座れるパッケージを実現している。
全長3780mmは、トヨタヤリスより150mmほど、フィットより200mmほど短い。乗り込んでみる前は、リアは狭くてキビシイだろうと思っていたのだが、座ってみて驚いたというのが正直なところだ。
BYDは、ブレードバッテリーとe-Platform3.0 によって、天地の低いバッテリーケースを実現しており、ATTO3が日本導入された際にも、筆者はリアシートに座って、フロアの低さに感心した。同じ強みが、シーガルでも発揮されていた。
特に、BYDの「シール」以降の最新モデルでは、CTC技術(セル・トゥー・シャシ:バッテリーセルをシャシに内蔵する仕組み)が導入されており、バッテリーのボディへの実装の最適化がさらに進み、パッケージングに磨きをかけている。
EVのフロアが高い問題は、私のような外野が言うまでもなく、自動車メーカー自身がいちばん気にしている問題であろう。
筆者としても、個人的にこのテーマが気になっており、今回の上海モーターショーでは「フロアが低いメーカーはどこなのか?」をテーマとして臨んだ。
多くのメーカーの最新モデルに、実際に座ってみて試したのだが、結論として、BYDの新しいモデル(海洋シリーズ以降)が、他社を一歩リードしていると感じた。
次点として、長安汽車系の深藍SL03やAITO M5 EVもフロアが低く、リアシートにも気持ちよく座れたが、いずれもコンパクトカーではない(モーターショーとは関係ないが、テスラモデルYのリアシートもとても快適だ)。
このようなパッケージを実現できるBYDの凄みに、日米欧韓の自動車メーカーは脅威を感じていることだろう。
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