大型ミニバンは日本が世界に誇るユニークな存在。その頂点を極めるアルファードを水野さんはどう評価するのか? 一方、2007年のデビューから17年というロングセラーのデリカD:5。唯一無二の存在ともいえるデリカD:5の評価はいかに?
※本稿は2024年9月のものです
文:水野和敏/撮影:奥隈圭之
初出:『ベストカー』2024年10月26日号
■日本が世界に誇る大型ミニバン
今回取り上げるのは大型ミニバンの2台、トヨタ アルファードと三菱 デリカD:5です。
アルファードは日本が世界に誇るべき名車です。アルファードのような乗用車専用の豪華なラグジュアリーミニバンは、欧米にはありません。デリカも同様ですが、やはり日本の自動車メーカーならではのクルマです。
2車を並べるとデリカの幅が狭く見えます。アルファードの全幅は1850mmでデリカは1795mm。55mmという実際の差よりもアルファードの幅が大きく見えます。
アルファードは全長5m未満、全幅1.9m未満というのが必須で、これを超えると、マンションや都会の駐車場枠、カーフェリーの規格などさまざまな制約が出て、市場の受容性は狭まります。この境界は販売価格800万〜900万円付近にあります。
同じプラットフォームを使い開発された、1500万〜2000万円のレクサス LMは、全長5125mmで全幅1955mmと、このサイズ枠に囚われていません。
メインとなるユーザーはベンツ Sクラスやレクサス LSなどを併有していて、ミニバンやスポーツカーは2台目以降のクルマです。また、クルマの大きさの影響があまりない生活環境なのです。
デリカD:5のデビューは2007年なので、すでに17年が経過しています。世代的には「旧世代」のプラットフォームですが、エンジンのアップデートやフロントマスクの大胆なリニューアルを行って、けっして古さを感じさせないのはお見事です。
ちょうどR35GT-Rと同い年ですが、デリカD:5は流行に左右されない独自のコンセプトとデザインにより、17年という時間を感じさせません。
本格的な4WDを備え、最低地上高を185mmとした3列シートのスライドドア車、言うなれば「オフロード・ミニバン」というコンセプトは、三菱だけの唯一の商品です。日本だけではなく、世界的に見てもユニークな存在です。
デリカD:5は、アルファードやノア/ヴォクシー、セレナ、ステップワゴンのように、月販8000台を目指すクルマではありません。三菱もそこはわかっています。
しかし、長年にわたって安定した市場のニーズがあり、そこに特化して応えている商品です。会社の規模やイメージ、持っている技術などを考えたうえで企画されたベストセラーです。
いつもだと、ここでプロポーションやエクステリアデザインなどを評価していくのですが、特にアルファードに関してはデザインを論議する必要はありません。デザイナーの意向でデザインが決まるのではなく、アルファードのデザイン表現は、ユーザーの心と期待で決まるのです。
“心”は「クラス下のミニバンと一線を画す存在感と威圧感」、そして“期待”は「クラウンやセルシオから乗り換えても、絶対に見劣りしない豪華感と高級感」です。
この一般ユーザーが望む「心」と、社用車や公用車に必要な「VIP車の期待」。そのためのデザインなのです。セレナより豪華で大きいミニバンを作るエルグランドとは、ここが根本的に違います。
アルファードの競合車は、クラウンやセルシオなのです。これに全長5m×全幅1.85m×高さ1.9mのサイズで対抗しますが、この1.9m超という高さが作り出すゴージャスな空間が、アルファードを新たなVIP車にした強力な魅力です。
単なる素晴らしいミニバンとしてのデザインとはしていません。ジャンル違いの高級車と対抗できるデザインなのです。
ですから、アルファード/ヴェルファイアには、クラウンやレクサス系からの乗り換えユーザーも多くいますし、これこそがアルファード/ヴェルファイアが売れているエッセンスです。しっかりとそれができているので、これほど売れているのです。
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