今や日本で最も売れるクルマである、軽スーパーハイトワゴン。
2019年の登録車・軽自動車総合での新車販売台数ランキングでは、3位までが、この軽スーパーハイトワゴンが占めるなど、空前のヒットとなっている。
なかでもホンダN-BOXは、登録車含む新車販売台数において、3年連続トップを獲得する、という独走ぶりを見せている。
そんな絶対王者N-BOX活躍の陰で、軽スーパーハイトワゴンジャンルのパイオニアといえる「ダイハツタント」が苦戦している。
昨年7月にフルモデルチェンジされた現行型は、クルマの評価が高く、軽自動車初はもちろん、世界初技術満載で登場しているのに、だ。
タントは、軽自動車販売ランキングで2位(2019年度)を獲得しており、決して売れていないわけではないのだが、N-BOXの現行型は2017年登場と、タントよりも2年も古いにもかかわらず、タントはN-BOXの牙城を切り崩せていない。
それどころか、スペーシアにも肉薄されており、さらに強敵、日産ルークスが加わった今、タントはパイオニアとしてのプライドが保てるか、という瀬戸際にいる。
タントが、イマイチ突き抜けられない要因とは、いったい何だろうか。
文:吉川賢一/写真:DAIHATSU、HONDA、SUZUKI、NISSAN、MITSUBISHI、SUBARU、奥隅圭之、平野学
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利便性は言うことなし、のタント
「新時代のライフパートナー」をキーワードに開発された新型タント。
従来通りシンプルで癖のない「タント」と、チョイ悪風にした「タントカスタム」の2系統のエクステリアデザインが用意されており、「ミラクルウォークスルーパッケージ」、「次世代のスマートアシスト」、そして「DNGAによる高い基本性能」など、新技術がふんだんに織り込まれた高い商品力と、先代から据え置きされた価格が魅力のクルマだ。
なかでも、タントの代名詞ともいえる「ミラクルオープンドア」の圧倒的な利便性には脱帽だ。助手席側のBピラーはドアに埋め込まれており、前後のドアを開けば、開口幅が1490mmにもなるので、ベビーカーごと車内に入ることも余裕でできる。
また、最大540㎜スライド可能となる、世界初の運転席ロングスライドシートにより、運転席に座ったままで、横を「くるっ」と向いて、後席の子供の世話をする、といったことが可能。子育て中のママにとっては、便利なシートアレンジだ。
他社がマネできていない「広い開口部」、「ロングスライドドア」など、どちらも子育て世代に焦点を合わせて開発されており、これらはタントならではの強みだ。
もう少し走りのしっかり感が欲しいタント
こうして、タントだけを見れば、とても魅力的なクルマに見える。
軽スーパーハイトワゴンは、このような車室内や荷室の広さ、使い勝手、スライドドアの開口部の幅の広さなど、「停車中に得られる恩恵」に目を奪われてしまいがちだが、こうした部分は、どのメーカーにおいても改良しつくされており、実はどのクルマも出来がよく、大差はない。
N-BOXにあってタントにはないもの、それは「軽スーパーハイトワゴンの弱点を克服した走行性能」と「運転時にありがたいシステム」だ。
軽スーパーハイトワゴンは、背高のボディゆえ、コーナリングが苦手だと思われがちだが、実は高速直進性のほうが、より脆弱である。
ボディ側面の面積が大きく、またタイヤのグリップレベルが低いため、ちょっとした横風や路面の突起で進路を乱されやすい。
こうしたボディ形状を採用する限り避けては通れない弱点であり、これらの弱点に対して、どういった対策を打っているかがポイントとなる。
タントは、ロールやピッチといったボディモーションがやや大きく感じる。
新世代のDNGAプラットフォーム採用により、前型タントに対してシャシー性能が大きく磨かれた、というが、ハンドルを少し動かしたときに出るロールの大きさや、橋の上で横風を受けたときの進路の乱れが大きかったりと、あと少し、しっかり感が欲しい印象だ。
王者N-BOXは、その点がとても優れている。
N-BOXは他車に比べ、上記と同様のシーンに遭遇しても上屋の揺れが小さく、ハンドルから手ごたえもしっかり返ってくるので、直進時も走らせやすく、コーナーでも切り過ぎないため、ボディがグラッとすることも少なくすむ。
まっすぐ走り、かつコーナーも安心して曲がることができるという点では、タントよりもN-BOXのほうが優れているのだ。3月に登場したルークスの走りも、N-BOXに近いレベルだ。
運転支援システムの装着率に決定的な差
そして、タントにとって、より致命的な弱点といえるのが「運転支援システム」搭載率の違いだ。
タントには、アダプティブクルーズコントロールと車線逸脱防止制御が備えられているが、ターボエンジン搭載車のみにメーカーオプションで設定されている。
N-BOXの「Honda SENSING」や、ルークスの「プロパイロット」と違い、売れ筋のノンターボ車には、つけたくてもつけられない、というのは、大きな落とし穴だ。
昨今は、TVCMやディーラーでの告知が功を奏し、走りやすさや走りの質感といった、「運転時のありがたみ」を享受できる方向へと、顧客トレンドが移行しているように感じる。
「自動運転」というキーワードが一般に浸透し、「軽への運転支援技術」も当たり前になってきたなかで、タントは「とりあえず運転支援はついてます。ただし最上級のターボ車のみメーカーオプションで(Xターボは6万5000円、カスタムRSは5万5000円)」というのは、いささか寂しくはないだろうか。
Honda SENSINGを全車標準装備するN-BOXとは、比べるまでもない。
「良品廉価」をより突き詰める努力を!
まずは、先進運転支援装備の採用率の見直しが必要だ。「これまでの顧客は運転支援必要としなかった」のかもしれないが、それは「これからの顧客の心の移り変わりを予測できていない」ことに、他ならない。
N-BOXができてタントができない理由はない。すぐ横に、コンパクトカー向けの運転支援を持つ「世界のトヨタ」がいるはずなのに、世間の関心をとらえきれていないのはなぜなのだろうかと、不思議になる。
以前、タントの開発エンジニアの方からお聞きした「良品廉価」という考えは、コストを下げることが優先ではないはず。
「良品」を提案したうえで、「廉価」にするエンジニアリングをすることが、「肝」なのではないだろうか。
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