■EJ20がWRCで暴れまくる
次いでデビューしたインプレッサWRXでは240馬力を実現。WRC本格参戦のパートナー、プロドライブからは次のような要望を受ける。
「300馬力をフルに発揮させ続けても壊れないエンジンがあればチャンピオンが取れる」。
それを受けてEJ20はWRCの実戦現場で高出力化と耐久性の確保がはかられルことに。
1990年、初代レガシィでの本格参戦当初は、当時の契約ドライバーであるマルク・アレン氏に「ノーエンジン」と酷評されるほどのパワー不足。
しかもガスケット抜けやターボトラブルが続くなど苦戦を強いられたが、ターボサプライヤーのIHIとの共同開発により、18万回転まわしても壊れないターボのベアリング開発に成功。
WRCグループA時代のレガシィの後期型からインプレッサWRXにバトンタッチしてからはエンジン本体のトラブルを起こすことはほとんどなくなり、EJ20の絶大な信頼性はWRCでのマニュファクチャラー3連覇の偉業に大きく貢献。
このWRC黄金時代と市販のEJ20の性能向上は見事にリンクし、1996年発売の2代目レガシィの後期型で2リッター初の280馬力を達成したり、インプレッサWRX用では1年ごとに大幅な改良が施されたりするなど、EJ20はこの時代に劇的な進化を遂げた。
2006年以降、WRCではラリーチームとしての実力に陰りが見え、良い結果が出せなくなった時期でも、エンジンの開発だけは順調に進行。
当時の富士重工業とプロドライブの協力関係は、エンジン開発に限っては最後まで理想的なかたちで良い関係が保たれていたという。
WRC用のエンジン開発は、STIと富士重工業が開発の中心となりながらも、プロドライブのエンジニアも積極的に関与し、高い戦闘力を維持し続けた。
WRC参戦末期は勝利することができなくなっていたが、EJ20のポテンシャルにはまだまだ余力があり、高出力化と耐久性の向上、軽量化などの改良プランも進んでいた。
■スーパーGTでも生かされたWRCの経験
2008年に撤退したWRCと入れ替わるようにして2009年から本格参戦が始まったスーパーGTでは、WRCで使っていたEJ20をレガシィB4のボディに載せたマシンでGT300クラスに参戦。
ラリーでは中低速重視だったのを、レース用では高回転域でのピークパワー重視タイプに調整し直しているなど、もちろんWRC用とは細部はかなり異なる。
焼き入れの仕方は異なるが、シリンダーブロックは基本的に市販のEJ20と同じだ。スーパーGTでは、2010年には鈴鹿で初優勝、2011年にはシーズン2勝を挙げるなど、レースでもEJ20を搭載するマシンの優位性を実証。
現在のBRZ GT300でも同様、EJ20を搭載するJAF-GTマシンはハンドリング性能の高さを最大の武器としており、コーナリングスピードは常にトップクラス。
しかし、性能調整が課せられるようになったこともあり、2017年の後半からエンジントラブルでのリタイヤが目立つようになるなど、レース用EJ20は、かつては絶大に高かった信頼性が大幅に低下。
改良を重ねてきたとはいえ、30年近く前の基本設計ということで、いよいよEJ20も限界説が囁かれるようになっている。
現状では4kgにもおよぶ異常に高いブースト圧を掛けざるを得ない状況がエンジンブローの原因とされており、それ以外にもEJ20にとって厳しい状況で戦うことが余儀なくされている。
今のスーパーGTでもエンジンの開発はSTI側が担当しているが、若手ながら優秀でドライバーからの信頼も厚いエンジニアの創意工夫により、エンジンの耐久性低下の問題は徐々に克服されつつある。
第6戦SUGOでは圧倒的な勝利を納め、EJ20復活を印象づけた。
ファンとしては、そろそろ新世代の競技用エンジンや6気筒の投入などの対策に期待してしまうところながら、最近のスーパーGTでのエンジン不調は、設計年次の古さというより、性能調整やその他の環境によるところが大きく、STIをはじめチーム内では新世代のFA/FB型への移行が望まれている雰囲気ではない。
もちろん、次世代の戦うエンジンの開発をやっていないわけではないが、費用的にもマンパワー的にもレース参戦と同時進行で行うのは難しく、まだしばらくは実績のあるEJ20を磨き続けることを重視する方針に変わりはない。
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