スバルといえば類まれなる4WD性能、そしてなによりも水平対向エンジンをメーカーのアイデンティティとしている。
そんなスバルの水平対向エンジンを代表するのがWRX STIなどに搭載されるEJ20エンジン。細かな改良などが続いているものの、なんと1989年生まれの大ベテラン。
このEJ20はいったい何が凄くてここまで進化し、そしていつ新型エンジンにバトンタッチするのだろうか。
業界いちのスバリスト、マリオ高野氏が5000文字で熱い思いを語ります。
文:マリオ高野/写真:スバル、ベストカー編集部
■赤字からの脱却、使命を負ったEJ20誕生秘話
まずは、EJ20というエンジンの歴史を簡単に振り返ってみよう。EJ型がデビューしたのは1989年。
初代レガシィに搭載されて以来、約30年の長きに渡ってSUBARUの最強ユニットとして磨き上げられてきた。
開発プロジェクトがスタートしたのは1984年。それまでの主力エンジンEA型はスバル1000用として生まれたもので、1966年デビューと基本設計が古く、元々はOHVエンジンとして生まれたこともあり、主にヘッドまわりの改良が限界に達していた。
当時の富士重工業が社運をかけて開発したレガシィは、レオーネ時代とは異なる高速性能や操縦安定性を実現するべく開発されていたので、エンジンも新しい世代へ移行する必要に迫られる。
EJ型エンジンの開発指揮をとったのは、のちにSTIの社長としても活躍する山田剛正氏。エンジンを刷新するには数100億円規模の予算が必要となるので、日本中の大企業が好景気に沸くバブル経済期の中で赤字を出していた当時の富士重工業としては苦しい選択だった。
しかし、当時の社長、田島敏弘氏も新エンジン開発の必要性を強く感じていたこともあり、全面的な刷新のゴーサインが出た。
車格としてはレガシィより下に位置付けられるエントリーモデルのインプレッサでは、直列4気筒の搭載も検討された。
試作車のテストでも良い結果が得られていたが、小型で軽量、かつ高剛性、さらに低振動であるなど、やはり水平対向エンジンには直列4気筒よりも優位性があり、他社にはない個性も発揮できるということで、乗用車にはすべてEJ型を搭載することが決定される。
直列4気筒を搭載すると、当時の提携先である日産の小型車とかぶる恐れがあり、それを避ける狙いもあったという。
EJ型エンジンの最大の特徴は、高剛性と高出力化への潜在性能の高さにある。メインベアリングはEA時代の3個から5個に増やし、ブロックの結合ボルトは5本に増やしてブロック剛性を大幅に強化。
逆に、ヘッド部分を固定するボルトはEA型の9本から6本に減らして、吸排気ポートまわりの設計の自由度を増し、高出力化に対応できるようにした。
市販車の初代レガシィでは、当時としては2リッターの世界最強クラスである220馬力を実現。
初代レガシィ発売前に実施された、かの有名な「10万km世界記録挑戦」では、ピストンなどの重量バランス精度を高めるファインチューンを施したものの、基本的には市販の初代レガシィに搭載されるEJ20そのものを搭載して、記録を達成。
当時の2リッターエンジンとしては世界最大級の出力を出しながら「10万kmアクセルを全開にし続けても壊れない」という驚異的な耐久性の両立を実証する。
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