同じメーカーはもとより、異なるメーカーであってもプラットフォームなどを共用する“兄弟車”は意外に多い。だがこの兄弟車というのがクセ者で、似ているがゆえにユーザーを食い合う兄弟げんかに発展してしまったこともある。今回はそうした兄弟げんかの勝敗や、意外な展開となったケースを紹介していこう。
文/長谷川 敦、写真/トヨタ、日産、スバル、ゼネラルモーターズ、FavCars.com
【画像ギャラリー】兄も弟も出来はいいのに…仲たがいが仇となった!?(11枚)画像ギャラリークルマの“兄弟”ってどういうこと?
現代のクルマはプラットフォームと呼ばれる基本構造にエンジンやサスペンション、ボディを装着して完成しているものが多い。つまりプラットフォームが同じであっても、見た目やエンジンなどが異なる兄弟車が存在できるというワケ。近年は自動車メーカーのグループ化が進んでいて、国籍の異なるメーカーのクルマが同じプラットフォームを使用していることも多い。
このようにプラットフォームを共用し、なおかつサイズや見た目に共通点の多いクルマを一般的に兄弟車と呼んでいる。なお、クルマの場合“兄弟”なのか“姉妹”なのかは見解の分かれるところだが、この記事では兄弟車という名称を使用することを了承してほしい。
全店販売の犠牲者はどっち? 「トヨタ ルーミーVSタンク」
トヨタが販売するトールワゴンスタイルのコンパクトカーがルーミー。このルーミーはトヨタグループのダイハツが開発・販売するトールをベースにしたモデルで、トールのほかにもスバルがジャスティとして販売している。だが、実はつい最近までルーミーには同じトヨタ内でタンクという兄弟車が存在していた。
ほぼ同じクルマがルーミー&タンクの別名で販売されていたのは販売店が異なっていたため。ルーミーはトヨタ店とカローラ店が販売し、タンクはネッツ店とトヨペット店が扱っていた。しかし、トヨタは2020年に全車種全店扱いを実施することになり、競合してしまうルーミーとタンクはルーミーに一本化されてしまった。
ルーミーVSタンクの兄弟げんかがルーミーの勝利に終わった要因はルーミーのほうが売れていたから。当時のルーミー/タンク/トール/ジャスティ4兄弟のなかで一番販売台数が多かったのがルーミーで、タンクは2位だったのだが、同一メーカーという点がマズかった。
かくしてタンクは2020年をもって販売を終了。ルーミーは現在でも継続販売されている。
トヨタ製ミニバンの覇権争い? 「アルファードVSヴェルファイア」
トヨタが販売する大型ミニバンのアルファードとヴェルファイア。この2台もプラットフォームを共有する兄弟車で、登場はアルファードが先。アルファードが2代目にモデルチェンジする際に派生したのがヴェルファイアだが、アルファードが高級感のあるルックスだったのに対し、ヴェルファイアはより若者向けの厳つい見た目を特徴にしていた。
トヨタのこの戦略は功を奏し、2008年に登場したヴェルファイアは好調なセールスを記録した。実際、2015年のモデルチェンジを迎える頃にはヴェルファイアの販売台数はアルファードのそれを上回っていたほど。そういう意味では兄弟車の住み分けはうまくいっていた。
だが、この状況に変化が訪れる。当初は高級感をウリにしていたアルファードがヴェルファイア寄りへと舵を切り、攻撃的なルックスへと変貌していった。さらに2020年にトヨタが全店全車種販売を決定したことも転機になった。
販売店の数ではアルファードより優位にあったヴェルファイアだが、いざ全店販売が始まると、アルファードは2018年のマイナーチェンジによってついた弾みに拍車がかかり、好調に売れ行きを伸ばしていった。実際ヴェルファイアからアルファードに乗り換えるケースもあり、現在ではアルファードが完全に上位に立っている。
この結果、ヴェルファイアのグレードは1種類のみに縮小され、今後は消滅してしまうというウワサすらある。今後の再逆転は考えにくく、この兄弟げんかに関してはアルファードの勝利と言える。