クルマの魅力は走りや広さに代表される使い勝手のような直接的な機能だけでなく、美しさやインパクトといったデザインも重要だ。
現代のクルマで後者を挙げるならボディとルーフ(屋根)の色が異なるツートンカラーが代表的だろうか。
かつての日本車ではルーフそのものに着目し、ツートンカラーよりずっと手間がかかる形状などにこだわったクルマも多数あった。
もちろんすべてが成功したわけではないが、ユーザーを楽しませ、自動車業界を個性豊かな潤いあるものにしていた。当記事ではそんなクルマたちを振り返る。
文:永田恵一/写真:NISSAN、TOYOTA、SUZUKI、HONDA、MITUSUBISHI、MAZDA、SUBARU、DAIHATSU
日産フェアレディZ(2代目)
デビュー:1980年11月
こだわりのルーフ:日本車初のTバールーフ
デビュー時の価格:252万1000円(280Z 2シーター)

Tバールーフというのはルーフ中央に細い構造部材を残し、前席乗員の頭上はガラス製を含むルーフが脱着可能となっているものである。
メリットとしては、普段はフィックスドルーフと同等の快適性を確保できる、ルーフを外せばルーフの平面部分全体を脱着できるタルガトップに近い開放感を楽しめる、ガラス製のルーフであればシェードを外すとサンルーフ以上に明るい室内が現れる、といったことが挙げられる。
日本車で初めてTバールーフを採用したのは2代目フェアレディZで一部改良と同時にアメリカへの輸出専用モデルを日本でも販売を開始した。
それ以来フェアレディZは4代目モデルまで設定を続け、そのほかにも初代と2代目のMR2、日産でもエクサやNXクーペという採用例があり、日本車でもまずまず普及した。
しかしスポーツ走行をするユーザーには通常のルーフに対しボディ剛性が低下し、ハンドリングの正確さなどが見劣りするというデメリットや、ユーノスロードスターの登場以降オープンカーが増えると「Tバールーフは中途半端」という印象は否めず、現在は残念ながら絶滅状態となっている。
トヨタソアラエアロキャビン(2代目)
デビュー:1989年4月(500台限定販売)
こだわりのルーフ:エアロキャビンという名の元祖電動メタルトップ
デビュー時の価格:430万9000円

ハイソカーの1台として一世を風靡した2代目ソアラに500台限定の形で販売されたエアロキャビンは、左右のガラス部分こそ残るものの、電動で鉄製のルーフからリアウィンドウに掛けて開閉できるという、今では当たり前になった電動メタルトップの先駆けであった。
ソアラエアロキャビンはルーフの開閉のため2人乗りとなったが、静粛性など通常のソアラに近い快適性をキープした。
その後ソアラエアロキャビンの意思は完全な電動メタルトップとなった4代目ソアラ&レクサスSCに受け継がれた。
現在ソアラのポジションはLCが引き継いでいるが、ソアラやLCの贅沢さを極める存在として今年のデトロイトモーターショーに出展されたLCのオープンモデルの市販化を熱望する人も少なくないのではないだろうか。
スズキカプチーノ
デビュー:1991年11月
こだわりのルーフ:Tバールーフ、タルガトップ、フルオープンが変幻自在
デビュー時の価格:145万8000円(ベースグレード)

1991年登場のカプチーノは、同じ年に登場したビートと並ぶ軽ながら痛快なオープンスポーツカーだった。
単純なソフトトップだったビートに対し、カプチーノのルーフはアルミ製の分割できるものとなっており、クーペ状態からTバールーフ、タルガトップ、フルオープンという3つのオープンエアモータリングが楽しめた。
さらにルーフはフルオープンにしても荷物の積載はともかくとして、分割したしルーフがトランクにキッチリ収まるというのだから恐れ入る。
ルーフの脱着にそれなりの時間が掛かったのは事実だが、このルーフを市販化したスズキの開発陣には敬意を送りたい。
ホンダCR-Xデルソル
デビュー:1993年3月
こだわりのルーフ:トランスフォーマーもビックリの電動トランストップ
デビュー時の価格:188万〜196万6000円(SiRトランストップ)

初代と2代目のCR-Xは1.6Lのスポーツエンジンを主力にし、ジムカーナのベース車によく使われるなど硬派なイメージが強いクルマだった。
しかし1992年登場の3代目モデルはエンジンこそ変わらなかったものの、デルソルというサブネームが付く、タルガトップの2人乗りオープンという軟派なクルマとなった。
その是非はともかくとして、CR-Xデルソルのメタル製タルガトップは手動に加え、トランストップと呼ばれる電動タイプも設定されていた。
トランストップの開閉はトランクリッドが上昇し、トランクリッドの中にルーフを出し入れするという、トランスフォーマーかサンダーバードを思い出させる見事な動きだった。
CR-Xデルソル自体は残念ながら商業的には失敗に終わり、CR-Xの歴史も3代目で幕を閉じた。
しかし21世紀になってルノーウインドというCR-Xデルソルによく似たクルマが登場し、CR-Xデルソルの影響力は小さくなかったことが分かる(ウインドも短命に終わったが)。
三菱RVRオープンギア
デビュー:1993年8月
こだわりのルーフ:RVに電動ルーフを組み合わせた
デビュー時の価格:208万8000円(オープンギア)

1991年に登場した初代RVRは今でいうクロスオーバーカーで、リアドアはスライドドアを採用することで乗降性、使い勝手もよく、人気車となった。
当時業績もよく遊び心も強かった三菱自動車はRVRを3ドア化し、前席部分のみながらスライド式でルーフがオープンになるオープンギアを追加。
RVRが似合うアウトドアへの移動などでオープンエアモータリングも楽しめるという欲張りなクルマだった。
さらに後に初代RVRには2ℓターボ+4WDという仕様も加わり、オープンギアにこのパワートレーンを組み合わせたスーパーオープンギアまで追加され、悪ノリにも感じる当時の勢いが今の三菱自動車にも欲しいところである。
マツダボンゴフレンディオートフリートップ
デビュー:1995年6月
こだわりのルーフ:ルーフが電動で持ち上がるオートフリートップ
デビュー時の価格:224万2000円(RS-V)

エンジンを前席下に置くミニバンとして登場したボンゴフレンディの最大の特徴は、ルーフに三角テントを半分にしたように開くオートフリートップを設定したことだった。
オートフリートップは展開すると大人2人が就寝できる屋根裏部屋のようなスペースになるだけでなく、大人が立って着替えができるスペース、濡れた衣類などを干すスペースになるなど、想像以上に使える場所となった。
さらにオートフリートップ部分にも小さなガラス部分を設け日当たりを確保したほか、キャビンとオートフリートップ部分の間に飲み物などの受け渡しに使う小窓を設置するなどの配慮も抜かりなかった。
このためオートフリートップを主な理由にボンゴフレンディは好調に売れ、初代デミオと並び当時本当に苦しかったマツダの経営を支えた。
またオートフリートップのようなルーフを持つクルマは市販車ではベンツVクラス、専門業者が架装するキャンピングカーには多数あり、オートフリートップが与えた影響は未だに大きい。

スバルドミンゴアラジン
デビュー:1996年9月(受注生産)
こだわりのルーフ:ポップアップルーフで快適空間が出現
デビュー時の価格:159万8000円(CVT)

ドミンゴというクルマは軽1BOXカーのサンバーのボディを若干拡大し、エンジンも1L級の3気筒とすることで小型車化し、3列シートの7人乗りとしたモデルである。
2代目ドミンゴのモデル末期に追加されたアラジンは前述のボンゴフレンディのオートフリートップの影響もあったのか、ルーフに箱型に現れるテントを加え、車中泊できる人数を増やすというものだった。
さらにドミンゴアラジンにはカタログモデルで小さなテーブルやカーテン、ギャレー(流し)を備えたキャンパーも設定され、価格も200万円以下と内容を考えれば非常にお買い得だった。
残念ながらドミンゴアラジンはそれほど売れず、ドミンゴ自体も絶版となってしまったのだが、夢のあるスペースを持つクルマにアラジンの名前は、なんともロマンチックな命名に感じる。
ダイハツコペン(初代)
デビュー:2002年6月
こだわりのルーフ:世界一安い電動メタルトップ
デビュー時の価格:149万8000円(5MT/4AT)

平成ABCトリオと呼ばれたAZ-1、ビート、カプチーノの絶版で軽のスポーツカーが途絶えていた頃に登場した初代コペンは、軽ながら電動メタルトップを備えた贅沢なオープンカーだった。
コペンの電動メタルトップは機構こそオーソドックスなものだったが、コペンは約150万円の価格ながら同時期に登場した600万円の4代目ソアラと開閉スピード、スムーズさは遜色ないという素晴らしいものだった。
さらにコペンはオープン時に大きな収納スペースを使う電動メタルトップながら、オープン時にも一応のラゲッジスペースが残るという実用性も備えていた。
結果コペンは幅広い層から支持を集め、マツダロードスターとは違った意味でのオープンカーの楽しさを広めた。
またコペンは一時期空白期間があったものの、2014年に2代目モデルが登場しこのジャンルを継続していることには大きな拍手を送りたい。

ホンダN-BOXスラッシュ
デビュー:2014年12月(現在も販売中)
こだわりのルーフ:ルーフを低くしたチョップドルーフ採用
価格:142万1000〜192万円(現行モデル)

初代N-BOXファミリーのバリエーションとして加わったN-BOXスラッシュは、デザイナーが遊びで書いたN-BOXの全高を下げ流麗なルーフラインを持つスケッチが社内の評判が良かったため市販化されたという、現代のクルマとしては非常に軽いノリのクルマである。
ノリは軽いが、N-BOXスラッシュはチョップドルーフだけでなく、豊富なインテリアカラーや低価格ながら素晴らしいオーディオを設定し、静粛性を高め電動パーキングブレーキを採用するなどし、コンパクトカーなどから軽に乗り換えるダウンサイザーも満足できる軽自動車として登場した。
軽自動車は競争が激しいだけにN-BOXスラッシュも今になると古さを感じるのは否めないが、それだけに「このコンセプトを現行N-BOXの技術を使って継続してほしい」と感じるユーザーも少なくないのではないだろうか。
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現在日本車のオープンカーは、マツダロードスター、ホンダS660、ダイハツコペンの3台のみ。トヨタ86のオープンカーも結局お蔵入り。
日本でも人気のあったキャンバストップも現行のラインアップからは消滅しているし、サンルーフの装着率も大きく下がっているもよう。
日本人はオープンエアに憧れはあるものの、3日に1日は雨が降る国ゆえ、屋根を開けることに抵抗がある人も多いのだろう。
だからこそ晴れの日を楽しむ個性的なルーフが生まれてきた歴史があルにもかかわらず、そういう伝統が廃れてしまったのは悲しいかぎり。
遊び心を具現化した典型例が個性的なルーフで、ルーフに限らず日本車にもっと遊び心を盛り込んでもらいたいものです。