かつて隆盛を誇った50cc以下の原付1種に、いよいよ消滅の危機が近づいてきた?
ホンダはビジネスバイクの電動化を進めており、2023年には新車の販売構成比でガソリンエンジン車を逆転。2025年には70%超になると予測する。同年には原付1種に厳しい排ガス規制も適用されるため、エンジン版の“原チャリ”が生産終了する可能性もありそうだ。これに替わるコミューターの未来も探ってみた。
文/沼尾宏明、写真・資料/HONDA、YAMAHA、SUZUKI
【画像ギャラリー】急速にEV化が進む原チャリにはもうあの頃の姿はない!?(12枚)画像ギャラリー宅配人気を背景に、ビジバイが年々販売を拡大中
ホンダの法人向けビジネスバイクが堅調だ。
ホンダが2021年10月28日に発売した電動ビジネスバイク「ジャイロキャノピーe」の発表会で、原付1種(50cc以下)の現状と将来像が示された。これによると、原付1種の出荷実績においてビジネスバイクの構成比は年々上昇。2014年は19%だったのに対し、2020年は26%にまでアップしている(表1)。
中でも好調なのがジャイロキャノピーだ。このモデルは、雨風を防ぐ屋根を備えた3輪スクーターで、コロナ禍による宅配人気を受けて販売が伸びている。従来のガソリンエンジン版が前年比150%と好調。今回の電動版によって一段とセールスを伸ばしそうだ。
また、4速の自動遠心ミッションを備えるスーパーカブシリーズは販売が年々落ち込み、反対にオートマのスクーター系が伸びている(表2)。
助成金は最大48万円! 実はガソリンエンジン並みの価格で買える
電動バイク普及へのハードルは様々にあるが、その一つが価格。新作のジャイロキャノピーeは税込価格71万5000円と、従来のガソリンエンジン版(57万900円)より14万4100円高い。この価格は本体のみで、バッテリー+専用充電器のリース費用を足すと89万円になる(リース料金は期間やプランで異なる)。
とはいえ、電動バイクには助成金が手厚く、36万2000円もの補助が出る(東京都の場合)。これを引くと価格は52万8000円! なんとガソリンエンジン版より安く買えてしまうのだ。
助成額は原付1種で上限18万円、三輪の原付は上限が48万円。同種同格のガソリン内燃機関車の本体価格からマイナスした額が支給されるため、車種ごとに金額が異なる。
こうした要因を背景に電動ビジバイは今後ますます販売を伸ばすと思われる。
ベンリィおよびジャイロシリーズは、ともにガソリンエンジンとEVを販売するが、ホンダの予想では、2023年に販売構成比でEVがエンジン車を上回り、2025年には70%超になるという(表3)。
ガラパゴス化した50ccエンジン版に次期排ガス規制のリミットが迫る
電動ビジネスバイクは今後も順調そうだが、心配なのはガソリンエンジン版の去就と、一般ユーザー向けのコミューターだ。前述のとおり、ガソリンエンジンの原付1種は減少の一途。また大手メーカーによる原1相当の電動バイクで、個人が購入できる製品はヤマハ・Eビーノしかない(2021年11月末現在 リース販売除く)。今後の展望は不透明だ。
まずビジバイを含め、ガソリンエンジンの原1は「生産終了」の可能性があるだろう。その理由の一つとして挙げられるのが2025年に適用予定の次期排ガス規制だ。
規制値が厳しく、重量、搭載スペース、コストなどの兼ね合いで、小排気量車ほど求められる技術レベルが高い。加えて エンジンやマフラーなどの劣化を検知するOBD II(車載式故障診断システム)が義務化されるが、機器は高額。そのため、価格は最低でも「20万円超」になる言われている。
したがって原1へのOBD II導入は国土交通省で再検討中だが、現在、最も安い価格帯の原1スクーターで税込16万円台。導入が決まれば大幅値上げは避けられない。
ネコも杓子も原付スクーターに乗っていた20~30年前に比べ、原付が売れなくなったのは、そもそも1990年代末から激化した排ガス規制対応による高額化が原因。2006年の駐車違反厳罰化と駐車スペース不足のダブルパンチも追い打ちをかけ、販売不振が続く。
また、50ccという排気量はほぼ日本国内独自の規格だ。アジアや欧州、南米では110~125ccが主流で、グローバル展開が可能のため、メーカーとしても大量生産のスケールメリットを出しやすい。一方、日本でガラパゴス化した50ccを継続するメリットが薄くなっている。そんな中、次期規制でさらに値段がアップすれば、エンジンの「原付1種消滅」という事態もありえるだろう。
ラストワンマイルを担うのは電動ボード? 米大手も参入へ
その代替となるコミューターはどうなるのか? 現状では電動キックボードが有力候補の一つだろう。
原1のような「自転車ではツラい数kmの移動」というチョイ乗りのニーズに合致しており、スクーターより駐車スペースを取らない。ただし立ち乗りのため、不安定になりやすいのはデメリットだ(運転には原付免許が必要)。
2021年6月から特定の地域でヘルメット不要のシェアリングサービスに関する実証実験を行っているが、新たに米国のシェア型電動キックボード大手“バード・ライズ”社が日本に参入する。同社は28か国300都市で7万台を提供し、登録者数は1000万人。2021年内にも東京都でサービスを開始し、2025年までに20都市で展開する予定という。
また、ヤマハが3輪(前2+後1輪)立ち乗り電動コミューターの量産化を検討中だ。
電動スクーターは高性能バッテリーなど明るい材料も
もう一つの本命と言える原付相当の個人向け電動スクーターに関しては、海外で普及しているものの、国内ではまだまだ。「航続距離が短い」「インフラが未整備」「充電時間が長い」と課題が多い。
ただし、電動キックボードに比べて走りに安定感があり、さらに長距離向きなのは電動スクーターのメリットだ。
明るい材料としては二つ。まず一つはジャイロキャノピーeで採用されたバッテリー容量のアップだ。従来比で航続距離を1.2倍に伸ばしたした着脱式バッテリーを2個搭載し、1充電当たりの走行距離は時速30km/h走行で65→77kmにアップした。
このバッテリーは、既存のホンダ製電動ビジバイに使用可能なのもメリットだ。
二つ目は、電動バイクに関する社会実験が終了したことだ。自工会では2020年9月から1年間、大阪府および大阪大学と共同で電動バイクの実証実験「eやん OSAKA」を実施。国内バイク4メーカーが2019年に設立した「電動二輪車用交換式バッテリーコンソーシアム」も連携し、大学やコンビニにバッテリー交換ステーションを設置した。シェアリング式の充電済みバッテリーに関する利便性や問題点を洗い出すのが目的だ。
その成果が近々何らかの形で活用されることだろう。
電動キックボードの普及に加え、インフラの整備、魅力的な個人向け電動スクーターの発売が実現されれば、例えガソリンエンジンの原チャリが消滅したとしても、庶民の気軽な足は確保できそう。とはいえ、ラストワンマイルの未来がどうなるのか、もう少し状勢を見守るほかない。
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